吾輩は20卒である。

20卒のサラリーマンです。日々のこと、読書のこと、創作活動のこと等をつらつらと書きます。みなさんに楽しんでいただけるよな記事を書けるようになりたい。

【20 卒】整形と嘘【デート】

結論、整形って、まだまだ理解がある人は少ないし、理解があったとしても、ビフォーアフターで変化を見ると、拒絶反応を起こす人は少なくないよなぁ、という悲しい話。

 

コロナでリモート環境のなか、整形する人が増えたと聞いた。

それについて思い出すことがあったので書く。

 

彼女は京都の女だった。

僕たちは夜景のきれいな阪急32番街のレストランにいた。塚田農場の豪華版みたいなやつだった。

この日僕はその4時間後に彼女とお風呂に入って、そのGカップのたわわに鼻血ブーするのだけれども、これはその前のお話。

なぜだろう、僕たちは整形の話をしていた。

発端は確か、僕が彼女の横顔をほめたからだった。そして、彼女も僕の横顔をほめた。僕たちはお互いに鼻が高かった。

彼女は鼻が高くて美人だったけれど、僕の鼻はただ高いだけだった。何もない野原に綺麗なオブジェがあっても、それは全体としてちぐはぐな印象を与えるだけだろう。

「ちょっと触って」と彼女が自分の鼻を指さして言った。

僕は触った。まだ抱いていない女の鼻を触るのは、変な気分だった。しっかりとした鼻筋の通った、立派な鼻だった。

「触ったよ」

「どうだった?」

「別にどうってことはない。普通の綺麗な鼻だよ」

いきなり、彼女は元彼の話をし始めた。彼女の元彼は二人いて、だいぶ好きだった方の元彼の話をし始めた。

彼女の元彼は、(僕みたいに気を使えない男ではなく)話ながら、相手の言ってほしいこと、認めてほしいこと、とがめられたいこと、そのすべてをわかって、そして適切な言葉をくれる人だった。(らしい)

で、元彼はなぜだか彼女の鼻のことを整形した鼻だと思っていたらしい。

だから、彼女の前で、整形を肯定するようなことを言って、鼻を触っていたらしい。

「でも、ほんとにわたしは整形していないの!」

彼女は言った。僕の目をまっすぐ見て。真っ黒な瞳が、お酒のせいで潤んでいる。

「あなたは整形ってどう思う?」

答えを間違えちゃいけない場面だ。自分の承認欲求を全否定しなければならない。そして、相手の承認欲求を見定めて、優しくなでつけて、こっちにおいでと言って手招きをし、抱きしめてなければいけない。この子の承認欲求は猫の形をしていた。それは追えば追うほどに、どこかに姿をくらませて出てこない。だから、まるでわたしはあなたには興味なんてないですよ、なふりをして、その猫がこっちに出てくるのを待ってなくてはいけない。

 

「別に、本人がいいと思うならいいんじゃない?」と僕は言った。

「整形ってのはさ、物理的なものだけど、それはある意味で精神的で、思考の上にあるものなんだと思う」

彼女の喉が動く。普段はそんなにお酒を飲まない。少なくとも、前回までのデートでは。

「つまりさ、普段は自分の顔なんて決して見えない。鏡を見れば見えるかもしれない。けれども、それは鏡に映っている顔を、自分の顔だって信じているだけだよ。経験的にね。昔の人は、澄んだ湖をのぞき込むくらいしか、自分の顔を見る手段がなかったろう。つまり、自分の顔というのは、自分の外の、目に映る世界ではなくて、自分の心の中に存在するんだよ。それを変えたいというのは、つまり、自分がこの世界にどう存在するのか変えたいというのは、よっぽどのことがない限り、精神的な問題だと思うよ。現実的な問題が無い限りね」

「なるほど」

「それでさ、僕もまぁ、大学時代に病んだりしたんだけれど、外面を治すだけで、ちょっと荒い言い方だけど、顔を治すだけで、精神のつまづきがなくなるんなら、それは素晴らしいことだと思う。本人のためにもさ」

彼女は私の答えに満足したと言ってくれた。私のことをほめてくれもした。

そうして彼女と一緒のベッドにもぐりこんだ後で、私は思い出していた。

 

 

大学1年生から2年生にかけてのことだった。私には、時々飲みに行ったり、遊びに行くという程度の仲の女友達がいた。仮にMとしよう。今だったら、彼女とセフレになっていたかもしれない。いや、やっぱりそれはない気がする。

とにかく童貞だった私は、彼女と遊ぶことはあれど、セックスをしようだなんて思いはこれっぽっちもなかった。カラオケボックスで二人きりになっても、彼女にキスをしてみようかな、なんて思いはこれっぽっちも湧き出てこなかった。

彼女の方では、私の方をどう思っていたのだろう。たぶん、いい友達と思っていたのだと思う。そう思っていた。当時は。

 

春休み明けだった。2年生になっても、必修のミクロ経済学はクラスごとに授業が割り当てられるから、大教室の後ろにクラスの連中が固まっていた。留年した私は、彼らとは対角線を挟んで真逆の方向に座っていた。

 

ラインの既読通知が大量にたまっているのに気が付いたのは、授業の後だった。なかなかミクロ経済学も面白いな、と思いながら、一人で教室を出ようとしたとき、なんとはなしにラインの確認をしたとき、クラス男子グループラインにメッセージが積み重なっているのに気が付いた。

 

「やっぱあの子、絶対整形したって」

彼らは、Mの話をしていた。Mは整形したらしかった。

私はその後、Mのプロフィールの写真が変わっているのを見つけた。確かに、彼女は目を整形していた。けれども、その変化はごくささいなものだった気がする。もし、私が彼女と整形前に会っていなければ、それが整形だとは気がつかなかっただろう。あるいは、Mのことをクラスの男子ラインで話しているのを知らなければ、私はMが整形していたことに気が付かなったかもしれない。

 

それからMと会う機会があった。2年生になって、クラスが一緒の授業はなかったけれど、一般教養のクラスでたまたまあって、となりで授業を受けたりした。

Mは確かに整形していた。それは、となりに座るとよりはっきりわかった。

 

その後、一度ごはんに誘われた。でも、なぜだろう私はそれを断った。別に彼女が整形してもしなくても、その日のごはんには影響していなかった気がする。けれども私は、可愛い女の子には目がない俗物系男子だから、もし彼女が見違えるようにかわいくなっていれば、私はごはんに言っていただろう。

 

整形はMに可愛さをもたらしはしなかった。

ただ、見知った人間に、彼女の目に違和感をもたらすだけだった。

その後、すぐに私はあまり大学に行かなくなった。そうして結局卒業が人よりだいぶ遅れてしまうのだが、その学校に行かなくなった期間、私に心配するようなラインをしてくれたのはMだけだった。

 

一度、インスタグラムを作った時に、なぜだろうMから通知が来た。彼女のアイコンは帽子を目深にかぶって、目元を隠していたものだった。目元を被った彼女の顔は、唇と鼻がとても理想的な形をしていて美しかった。

私は彼女の唇と鼻が、とても美しいことを知らなかった。

あるいは、それは昔私が見ていたものとは違ったのかもしれない。

 

一度、Mは自分の実家が金持ちなんだと言っていた。

 

インスタグラムもすぐにアカウントを削除してしまったから、私はもうMがどうなったかを知らない。順調にいけば、私より3年前に就活して、3年前に社会に出ている。

どこで何をしているかはわからない。

彼女の目元はもう違和感をもたらすことはないだろうか。

もう一度だけあって話してみたい、と社会人になって思うことが増えた。いろいろな人も。もう私は限定的な数の人間と会って、働いて働いて死ぬだけだ。

 

別に、あって話すこともないくせに。