吾輩は引っ越し当日である。
今日は引っ越し屋さんが来た。9時に来ると言っていて8時55分に来たから本当にありがたい。
引っ越し屋さんはすごいなぁ。来る前はこんなに荷物でいっぱいだったのに。
引っ越し屋さんが去っていくときはこうだ。
ちなみにこの間、かかった時間は一時間ほどだった。素晴らしい手腕!素晴らしい手際!
(???) 日本の引っ越しの技術は、世界一ィィィィィィ!
はい。ジョジョは大好きです。特に7部と5部は作品を通じたメッセージとか、物語そのもののエンタメ性も含めて至高。国語の教科書に乗せてもいいと思う。
閑話休題。
そうして空っぽになった部屋に、吾輩はしばしとどまっていたよ。おなかが空いていなければ泣いていたと思う。
というか、いま泣きそうだ。
この部屋では五年も過ごした。
人生で最も自由で、最も努力して、最も恋愛して、最も(これからはもっとだろうが)働いた五年間だった。
初めて女友達をよんだのもこの部屋だったし、初めて彼女を呼んだのもこの部屋だったし、初体験もこの部屋だったし、初めて大学の友人と宅飲みしたのもこの部屋だったし、元彼女さんと別れ話をしたのもこの部屋だった。
そういえば、昨日、荷物の整理していたら元彼女さんの持ち物が出てきた。
捨てたけど、そのせいなのだろうか、夜に元彼女さんの夢を見た。
いまは何をしているのだろう。元気なのだろうか。
賃貸から引っ越すというのはあれだなぁ。大好きな彼女と別れるのと似ているような気がするなぁ。
いろいろな思い出を共有したこの部屋で、吾輩が寝ることはもうないのだろう。
毎日毎日苦しい日も、うれしい日もあった。
春になったら孤独で泣いて、夏になったらうれしくて笑って、秋になったら身を寄せ合って微笑んで、冬は寒くてガタガタ震えていた。
そう、この部屋は冬がすごく寒かったんだなぁ。
この部屋を訪れた人は男も女もみんな寒い寒いと言っていたよ。
なんだか、すごく悲しい。そんな感傷に浸るつもりもないのに。
この部屋は、吾輩がいろいろなことを経験したこの部屋は、もう吾輩の手によって鍵を開けられることはないのだ。
卒業なんかよりも全然悲しい。遅すぎる大人になるためのステップだ。
もう(おそらく)二度と綱島へは帰らないし、帰ってもあそこの家にはいかないだろう。
そして綱島に帰って、あの家に帰っても、吾輩はあの部屋の扉を開けることはできないのだろう。
そしてあの扉の向こうには、もう吾輩ではない、見知らぬ誰かの日常があるのだ。
部屋との別れがこんなにも悲しくなるなんて思っていなかった。
ところで吾輩はリトルトゥースである。以前春日さんがラジオでこんなことを話していた。
春日さんはむつみ荘というぼろアパートに20年近く住んでいたが、奥さんとの結婚や浮気騒動もあって、むつみ荘の引っ越しを余儀なくされたそうだ。
けれども引っ越した後、しばらくはむつみ荘を見て帰っていたという。
それをラジオで聞いたときは、やっぱり春日変態やな……としか思わなかったけれど、いまは気持ちがわかる。
吾輩もあの103号室を見て帰りたい。
いつか死にたくなったら、もう一度だけあの部屋に戻ってみたい。部屋と言わずとも、あのアパートを見てみたい。
さよなら。
今日もいい日になりますよう。