Iちゃんは苛烈だった。少なくとも、わたしにとっては。
Iちゃんにすごく怒られたことがある。わたしが書いている小説をIちゃんに読んでもらった時のことだ。
基本的に小説のキャラクターというものは、色々な人の要素を寄せ集めて作っているわたしにとって、特定の女性をイメージして創っているヒロインや、キャラクターはいなかった。
けれども、Iちゃんはほかの元カノをイメージしていると思ったみたいだった。
そのことで、二人のラインのアルバムの写真を全部消さりたりもした。
土曜の夜に連絡がつかないと、ラインが10数件入っていることがあった。だから、ラインを見るのが怖くなっていた。また怒られているんじゃないか、とおびえながら指で画面をスワイプしていた。
いつしか彼女と一緒にいることに、やすらぎよりも恐怖を感じることがあると気が付いた。
Iちゃんは常に上を上を求めていたのだと思う。
就活も、大学生から一番人気のコンサルティング会社に難なく決まっていた。
彼女がブレーキの壊れたフェラーリなら、わたしはアクセルの踏めない軽トラだったのだと思う。
スリルとカッコよさと、誰もが憧れるその外見は、だんだんとわたしには不釣り合いなどだということが分かってきた。
だから、わたしたちは別れた。
それがお互いにとってベストな選択だと思ったから。
彼女は今幸せだといいな、と心から願っている。わたしはどうやら、彼女の望むような人間にはなれなかった。就活ではずいぶんと苦戦し、大学だって普通の人が4年ですむところを7年もかかっている。
そうしてわたしは、ブレーキの壊れた軽トラに、そっちのほうが安心だよと笑ってくれる誰かを求めて、今日もおろおろ都会の端っこを歩いている。