雑感、簡単なあらすじはこちら↓
- ・あらすじ
- ・1章【船着き場】
- ・二章【雄飛熱】
- ・第三章【昼】
- ・第四章【芋粥】※時代1945年、終戦直後。
- ・第五章【納屋】
- ・第六章【無口な帰郷者】
- ・第七章【夕方】
- ・第八章【カゴシマヘノコ】
- ・第九章【帰路】
・あらすじ
実家に帰ってきた美奈は母親や、叔父や叔母ととともに、〈古か家〉〈新しい方の家〉そして納屋のある島へと向かう。目的は納屋の周りを取り囲み、家がおぼれるように生えている雑草を刈るためだった。
美奈は毎年、毎年雑草を刈ることを理解できないでいた。それでも母に言いくるめられるままに、納屋の周りを刈る雑草を手伝うことになる。
この現代の美奈を中心とした物語が奇数章(1,3,5,7,9章)で展開され、偶数章(2,4,6,8章)にはその納屋がある島通過した歴史の物語がそれぞれ描かれる。それぞれ、戦前、終戦直後、江戸時代、10~年ほど前(おそらく)の時代を舞台にした、主人公も時代も全く違う物語だ。ただ一つの共通点として舞台である島がある。9章からなる物語。
・章ごとのあらすじ
・1章【船着き場】
母である美穂の運転する車によって、吉川美奈は船着き場にやってきた。船着き場には母の妹である加代子、そして母の兄である哲雄もいた。これから、島にある納屋の草刈りに行くが、美穂にはその意味がわからなかった。せっかくの連休を無駄にしてまで、どうして納屋の草刈りをしなければいけないのだろう。
「だって綺麗にしたっけ、どうせ何もせんちゃっけん。ただ歩きやすい原っぱになるだけじゃん」と美奈は言った。が母は返す。
「やけん。みっともないとよ」
不承不承のまま、美奈は家族とともに納屋のある島へ向かう。
・二章【雄飛熱】
- 満州国がたって三年後という描写があるから、時代はおそらく1935年。
話好きの夫は、土間によく客人をよんでいた。が、そのことを妻はよく思っていなかった。一つにはそうした度重なる来客につかれたのと、もう一つは夫の秘めた情熱がいつたきつけられるか分かったものではなかったからだ。
夫は広い世界に出たいという野心を持っていた。
そしてある日、夫は役場からパンフレットを手に家に帰ってきた。畑にもいかずに役場へ行っていた彼の手に握られていたそのパンフレットには「保証」と「案内」という文字があるのが見えた。
夫は妻に、たやすい用事でも言いつけるような声で、「もう頼んでしもうた」というのだった。
・第三章【昼】
美奈たちが島に着いたのは昼過ぎだった。そこで、美奈の祖母に当たる敬子と家族そろって昼ご飯を食べる。そして哲雄と美穂と加代子は草刈りに出かける。美奈と加代子の子である知香は残っていた。
・第四章【芋粥】※時代1945年、終戦直後。
彼(おそらくは第二章の夫)の乗った船は難破し、おぼれかけていた。
彼の乗っていた船は、四隻の漁師たちの船により助けられる。助けられた人々は、波止場から陸に降りると、一軒の家に案内された。そこの土間には、難破した船の人々が集められていた。
そこで芋粥のにおいをかいで初めて、彼は自分が何日も食事をしていないことを思い出すのだった。
彼は自分の近くに一人の子供がいるのに気が付いた。何の気もなく、彼は子供を自分の隣に座らせる。他の者は、彼らが親子だと勘違いしているようだった。
・第五章【納屋】
美奈と知香が遅れて納屋についたころには、もう草刈りはあらかた終わっていた。彼女らに残された作業は散らかった草を袋に詰めるくらいで、美奈は軍手をはめて草を詰め始める。
「でもさ、ここに放っておいたら、また生えてきちゃうんじゃない? 種があるんだから」と美奈は聞いた。
「生えたら、また刈りにくるとよ」と千加子は言った。まるで当然と言わんばかりに、そのことが美奈はまだ理解できないでいた。
・第六章【無口な帰郷者】
刃刺の青年がいた。彼の役割は、捕鯨の際に、鯨の背に飛び乗って刃物を突き刺しとどめをさすことだった。けれどもそれは危険を伴うことだったから、刃刺には鯨組の中でも一番の報酬を得ていたし、なによりその刃刺の青年は腕がたった。
彼は子供のころにある男に刃刺として、海に長く潜っているためのコツをある男に聞いた。男は、「なるべく黙っていることだ」といった。「陸上と海中の呼吸の仕方は違う。陸上で話過ぎると、息を短く吸い込むことに慣れてしまう。だから、陸ではあまりしゃべらないようにして、肺を息にためておくのだ」数年後、その男は刃刺がその言いつけを守っていることに驚く。
ある時、その刃刺は蝦夷に行くことになった。そうして、彼と入れ違えるようにして病が流行った。彼が戻ってくると、人々は蝦夷の話を聞きたがったが、彼はあまり多くを語らなかった。相変わらずの無口であった。
ある時に、彼は蝦夷で起こったことを語った。それを聞いていた男は、珍しく刃刺の彼が語った後でも、なぜだろう話を聞いた気がしなかった。
・第七章【夕方】
納屋の草刈りを終えた美奈と美穂は、吉川の〈新しい方の家〉を掃除した。〈新しい方の家〉はいたるところにカビが生え、二階はそこら中が埃をかぶっていた。
掃除をしながら、美奈は再び美穂に「どうして使わない家を掃除しなくてはいけないのか」と聞いた。
「だって、吉川家のやん」と美穂は即答する。
その答えを聞いて掃除しているうちに、美奈は、美穂と千加子は笑ってこそいるけれども、近いうちに美穂と千加子が死んでしまい、また自分も結婚などしてしまったら、この納屋をそして〈新しい方の家〉を家の手入れをするものが誰もいなくなることを思い当たる。そして、それの何よりの表象が草で覆われた納屋なのだろう。
草刈りを終えて腰を抑える母を見て、美奈は言った。
「草刈りを中止すればよかったのに」
「だってかわいそうもん」
「かわいそう?」
「納屋がさ」
美穂の答えに美奈は笑った。そんな理屈は聞いたことがないと。
・第八章【カゴシマヘノコ】
島に住む少年はボートで海へ出た。それは漁師の父親の持ちかけた話だった。漁師と少年は父子家庭だった。母親は漁師の父親の酒癖の悪さに家を出ていた。
ある時、父親は少年に向かってカヌーのボートでできる限り遠くへ行ってこいと告げる。はじめこそ辟易して断っていた少年だったが、結局はその条件をのんだ。一つには、30万を旅の支度金として持たせてくれると親父が言ったからだ。
出発した少年だったが、もちろん律儀にカヌーを漕いでできるだけ遠くに行く気なぞなかった。目当ては30万で、実際にともだちと落ち合って遊ぼうという話もしていた。
けれどもなぜだろう、漕ぎ出してみると、楽しくてたまらない。ただひたすら無心に漕いでいた少年は、ある島にたどりついた。そこで、少年は嘘をついて、カヌーを捨てて、内陸に戻ることになった。
少年は嘘をついたこと、そしてカヌーを捨てたことについては後悔していなかった。ただ、手にした金とこの嘘に始まったこれからの旅路に心を躍らせていた。
・第九章【帰路】
敬子のまつ家に戻った美奈たちは夕食を食べていた。もうすぐ、船に乗って内陸に帰るのだ。
「草ってどれくらいで生えてくるの?」と美奈が聞くと、哲雄は一年程度でまた元通りになるだろうという。
「一年!」と驚いた美奈は「除草剤をまこうよ!」というが、
「うんにゃ、除草剤はつまらん」と哲雄に一蹴されるのだった。
船に乗り、車での帰路、美奈と美穂と知香、三人の車内で、今日刈った草をスマートフォンで調べながら帰っていた。実に様々な種類の草があった。その草を調べては読み上げていく美奈。ふと後ろを向くと、眠っていた知香が目を覚ましてぼうっとしている。
「あぁ、今福岡に帰るとこね。これから草刈りに行く夢を見ていたから、びっくりした」
了
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今日もいい日になりますよう。