ども、ツナ缶プロテインです。
旅行に行く前にふと、目についた文學界二月号
なななんと、吾輩の好きな村上春樹の短編『品川猿』のその後を思わせるような題名が……
すぐに手にとりました笑笑
やっぱり村上春樹の魅力は長編じゃなくて、その切れ味鋭い短編ですよね。
吾輩、今まで読んだ短編の中で『品川猿』はトップクラスに好き。
本当にみんなに読んでほしい。
と、いうわけで、『品川猿の告白』読んでみましたとも!
1.あらすじ
「僕」は一人旅の途中たどり着いた温泉宿で年老いた猿に出会った。それは五年ばかり前のことで、その老朽化してほとんど傾きかけた旅館に宿泊したのはたまたまの成り行きだった。
午後7時にその温泉宿に降り立った時には、まともな宿はすべて満室で、僕は5,6軒の旅館に門前払いされていた。
そのあとでようやく、僕は「木賃宿」という、ただ古びているだけで、古風な趣などどこにもない旅館にたどり着く。
夕食を出さないその旅館は、朝食は出してくれて、おまけに宿賃は驚くほど安かった。
その旅館の建物や設備はずいぶん貧相だったが、温泉は素晴らしかった。
そして僕が人間の言葉をしゃべる年老いた猿にあったのは、その温泉だった。猿が温泉に入ってきたのだ。
僕と猿は温泉で少しばかり言葉を交わして、その後、僕の部屋でビールを飲みながら語りあう。
猿はもともと品川に住んでいたという。そして品川猿と呼ばれていたそうだ。
ある時、品川から力づくで追放されて、高崎山に放たれたのだが、猿は猿のコミュニティになじめなかった。
かと言って、人間のコミュニティにも戻れるはずのないその猿は、「はぐれ猿」として孤独を感じていた。
そして猿が告白するところによると、猿が最も気を病んだのは女性関係だったという。
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「ほう」と僕は言った。「女性関係というと?」
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猿はメスの猿には性的欲求を抱けなくなっていた。彼は、人間の女性にしか性的魅力を感じなくなっていたのだ。
その性的欲求を満たす方法もいささか変わったものだった。
猿は名前を盗むのだという。
気にいった女性のIDや運転免許証や名札など、そういったものを盗んで、そして強く心で集中すると、名前が盗めるのだという。
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「よくわからないんだけど」と僕は言った。「君が誰かの名前を盗むということは、つまりその誰かは自分の名前をすっかりなくしてしまうということになるのかな?」
「いいえ。その人が名前を全く名前をなくすというようなことは起こりません……(後略)」
「でも中にははっきり気づく人もいるわけだね? 自分の名前の一部が盗まれてしまったことに」
「はい。そういう方ももちろんおられます。自分の名前が思い出せないみたいなことが、時として起こります……(後略)」
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僕がその猿のことを思い出したのは、それから五年後、ある女性編集者と打ち合わせをしていた時のことだった。彼女は三十前後で、目が大きく、肌がきれいで、はやい話が美人だった。そして独身だった。
打ち合わせが終わって、軽い世間話をしていた時に、彼女の携帯電話が鳴った。
僕たちは見あった後で、僕が電話を取りなよというジェスチャーをした。
彼女は何事かを電話で話していたけれども、ふと、電話口を手で押さえて僕に尋ねた。
「すいません。私の名前はなんでしたっけ?」
品川猿のことを思い出したのはその時だ。
僕は彼女の姓を教えてあげた。
電話が終わった後で、僕は彼女に聞いた。
「名前を思い出せなくなることはよくあるんですか?」と。
ここのところ、自分の名前だけを思い出せなくなることが増えてきたのだと彼女は言った。
「もしかして、最近、運転免許証か何かを盗まれたました?」
彼女は実際に運転免許証を盗まていた。公園で、一瞬のスキにバッグがとられてしまったのだ。
だけれども、バックは交番の前に置かれていた。現金もカードも、時計も取られずに。取られたのは、彼女の運転免許証だけだった。
「運転免許証が盗まれたことと、私が名前を思い出せないことは何か関係があるのでしょうか?」
と彼女は聞いた。
もちろん、僕は品川猿のことをこたえるわけにはいかなかった。
彼女は僕のことをおかしい人と思うかもしれないし、あるいは品川猿について根掘り葉掘り聞いた挙句群馬の温泉街まで捜索に行くかもしれない。
結局、僕はその女性編集者とも連絡を取らなくなってしまった。
彼女の名前はどこへ行ったのか、僕は知らない。
2.感想(と考察)
うーん……
本家『品川猿』のほうがおもしろい!笑笑
あとは前に読んだ『謝肉祭(Carnabal)』のほうがおもしろかったかな。
話自体は、『品川猿』のアフターストーリーです。
ですが、『品川猿』の話の核は、「名前と一緒に、本人の嫌な記憶(名前にまつわる嫌なこと)」も一緒に盗むということ。
その物語上の設定が非常に効果的で(少なくとも僕には)心を動かすようなオチとして機能しました。
この『品川猿の告白』ではそうしたハッとするようなストーリーの展開、のようなものはないですね。
おそらく最後に登場する、品川猿に名前を盗まれたと思われる女性も、名前とともに「名前にまつわるネガティブな何か」を盗まれたはずです。
『品川猿の告白』では、考察の余白が与えられていませんが。。。
割と村上春樹らしくないなー、と思ってしまいました。
『納屋を焼く』に代表されるような村上春樹の短編は結構余白を残して、結論を置き去りにして読者に投げるようなスタイルがおもしろいんですけどね。
『納屋を焼く』は村上作品の真骨頂が出てると思うから読んでほしい……
ま、『品川猿の告白』も『品川猿』未読だったらもっと面白かったのかも、
とにかく『品川猿』の完成度が短編としてすごすぎるからなぁ……
↓読者に鮮やかな印象を残す短編の見本。
なんにせよ。
まだまだ春樹さんが現役で吾輩はうれしい限りです。
今日もいい日になりますよう。