吾輩は芥川賞を全部読む。

20卒のサラリーマンです。日々のこと、読書のこと、創作活動のこと等をつらつらと書きます。みなさんに楽しんでいただけるよな記事を書けるようになりたい。

木村友祐 『幼な子の聖戦』 あらすじ解説

ども。

 

2019年下半期の芥川賞候補が発表されましたね。

 

ちなみに候補作は以下のようになっています。

【候補作】

 木村友祐さんの「幼な子の聖戦」、

高尾長良さんの「音に聞く」、

千葉雅也さんの「デッドライン」、

乗代雄介さんの「最高の任務」、

古川真人さんの「背高泡立草」

 

ちなみに直木賞は以下の通り。

 

 小川哲さんの「嘘と正典」、

川越宗一さんの「熱源」、

呉勝浩さんの「スワン」、

誉田哲也さんの「背中の蜘蛛」、

湊かなえさんの「落日」

 

 

……湊かなえ先生って、まだ直木賞受賞されてなかったんですね。知らなかった。

 

まぁ、芥川賞は作品に与えられて、直木賞は作家に与えられる賞ともいうので、今回の直木賞湊かなえ先生なんじゃないですかね。ほかの四人は初選出というし。

 

 

 

そして今回も前回と同じように、新人賞からそのまま芥川賞ノミネートはありませんでしたね。

あと、古市憲寿氏は新潮に小説を発表していましたが、ノミネートされませんでした。

まぁ、割に納得のいく結果ですが……

↓古市氏の新作はこちら。

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というわけで今回は、候補作の一つ、木村友祐氏の『幼な子の聖戦』をあらすじ解説していきます。

 

 

 

✔︎簡単なあらすじ

 舞台は青森県の村長選挙。主人公の「おれ」は父親の根回しで村議になったものの、これといってやる気もなく、幼少期からの劣等感にさいなまれている。唯一の楽しみは「人妻クラブ」のA子と性交に及ぶことだった。そんな中、スキャンダルで村長が引退したのちに、次期村長候補とされたのが、同級生の仁吾だった。いったんはかつての同級生、仁吾が語る理想に共感し、村長選での協力を約束する。しかし、人妻クラブのA子は実は県議、目久井の妻であり、弱みを握られた「おれ」は仁吾を貶める活動に手を染めていくのだった。

 

 

✔︎登場人物

おれ……主人公。幼少期から劣等感に苛まれている。東京での生活がうまくいかずに戻ってきたところを、父親の後押しで村議をやっている。

 

仁吾……「おれ」の同級生。昔から何かにつけ中心にいるような人物で、今回の村長選でも、村長候補になった。

 

簑田村長……前村長。村出身のグラビアアイドルを風呂場に呼んで接待したことがばれで、引退を表明した。

 

熊倉正治……村長選における、仁吾の対抗馬。じつは県議員である名久井の傀儡。

 

名久井……県議員。自分の利権のために、熊倉を村長にしようとしている。

 

A子……「おれ」が人妻クラブで頻繁に性交に及んでいた女性。実は名久井の妻であった。

 

 

✔︎あらすじネタバレ

【起】

東京から弾かれるように青森に帰ってきた「おれ」は劣等感が抜けきらないまま村議をやっていた。そんなときに簑田村長が突如引退を表明する。理由は東京にいた無名のグラビアアイドルが村出身なのをいいことに、呼び戻して露天風呂に裸にバスタオル一枚で接待させていたからだった。

時期候補として、選ばれたのがおれの同級生の仁吾だった。仁吾は昔から何かにつけて中心的な人物で、おれも仁吾が語る理想に一度は共感し、握手を交わすのだった。

 

【承】

いつものようにおれが人妻クラブで遊んでいると、A子との帰り道に、おれの車は囲まれる。とらえられて暴行を加えられると、そこにいたのは県議の名久井だった。じつはA子は名久井の妻で、名久井はこのことをばらさない代わりに今度の村長選で仁吾を妨害しろという。

そして、村長選には名久井の息がかかった熊倉という人物が出馬し、熊倉と仁吾の一騎打ちの様相を帯びる。

そんな中、劣等感に火をつけられたおれは、次第に、仁吾への妨害工作にのめりこむようになる。

 

【転】

おれの妨害工作や名久井の根回しで、村の男衆を味方につけ圧倒かと思われた村長選だったが、そうはいかなかった。仁吾陣営は村の女や若者を味方につけていた。選挙は村を割るというが、今や家庭の中が二つに割れていた。

村の女や若者に声援を受ける仁吾を見て、またもや俺の劣等感がくすぐられる。

全身全霊をこめたおれの妨害工作が何の意味もなさなかった証明である、仁吾の熱のこもった選挙演説を見る。その直後、おれは熊倉の、土色の顔をうかべて聴衆からは失笑の漏れる選挙演説をみて、自分が何をしていたのだろうと思う。

自分の行為に疑問をもちつつも、おれは村のお年寄りに声をかけ、期日前投票に連れて行く。

熊倉陣営は老人ホームにバスをチャーターして、期日前投票に連れていくという明確な公職選挙法違反行為をして、投票を募っていた。

ある時、地元の聖母マリア伝説を思う出したおれは、仁吾を伝説にしてやることを思いつく。ケネディのように、あいつを殺して伝説にしれやろうと。それこそがおれの役割だと思い込むようになる。

投票日前の最後の演説に、おれは出刃包丁を上着の内側に縫い付けて向かった。仁吾の演説は最高の盛り上がりを見せる中、おれは出刃包丁を取り出そうとする。しかしながら、服に引っかかって出刃包丁は抜けずに、誤って自分の膝をさしてしまった。脚を引きずりながら、激痛に悶える中、そのまま最高潮の熱気でもって、仁吾の演説は終わった。

 

【結】

投開票日は穏やかだった。名久井からの電話を無視していたおれは、A子から直接電話を受ける。彼女は「逃げた方がいい」という。おれはもう用済みらしい。

投票結果が発表されるとすぐに、女の悲鳴が聞こえた。

結果は熊倉の勝利だった。200票差ということだった。その200票という数は、熊倉陣営が味方につけたお年寄りの票数そのものだった。

おれはスマートフォンで隠し撮りしていた名久井に脅されていた時の動画を実名でYoutubeにアップするという告発をする。

そして熊倉の勝利に沸く、熊倉陣営を目にして、おれの中でふつふつと怒りがわいてきていた。

おれはもう決めていた。達磨を大騒ぎでわあわあ手渡している連中の、名久井に狙いをつける。すぐそばまで来ても、名久井は俺に気が付いていなかった。

おれはジャケットの裏で包丁を握った。

 

 

✔︎感想

この物語では、絶対的で大きな善、仁吾と矮小で姑息な悪、おれというきれいな対比ができています。

ぼくは殺人を犯すラストといい、読みながら「ジョーカー」を思い出しました。

 

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本来の悪とは崇拝の対象ではなく矮小で身勝手で、極めて利己的なものであり、それゆえに誰の心にも存在し得ること。だからこそ悪は時に人生に希望を見出すことができない人々に支持され得て、かつ絶対的な善を引きずり下ろすこともあるということ。

ジョーカーと「幼な子の聖戦」で書かれているテーマは非常に近しい気がします。

違いはカリスマかそうでないか。ジョーカーはカリスマになりましたが、おれは矮小な殺人者として(おそらく)一生を終えます。

それゆえによりリアルな読み味をもってこの小説は終わります。

時折笑ってしまうようなユーモアあり、はっとするような言葉ありの優れた物語です。

 おすすめ。

 

明日もよい日になりますよう。