吾輩は芥川賞を全部読む。

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慶應経済 TOEIC980 の僕が就活に失敗した理由を語ろうと思う① (小説)

慶應経済 TOEIC980 の僕が就活に失敗した理由を語ろうと思う① (小説)

※名前以外、ノンフィクションです。

 

 

 

              多くの就活生のために

 

 

 僕は二十四歳で、そのとき東急東横線の、電車マニアたちからはカエルと呼ばれる緑の車両の座席にすわっていた。そのカエルは分厚い雨雲のもとを進み、やがて渋谷に到着しようとしているところだった。

 やれやれ、また渋谷か、と僕は思った。このところ、渋谷、大手町、日比谷。この三つの駅で降りてばかりいる気がする。

 目の前では僕と同じように、黒い無個性なダークスーツを着た女子大生が腰を上げた。

 彼女は美人だった。でも、まるで今にも泣きだしてしまいそうな、ひどい顔をしていた。あるいは、彼女はもう泣いていたのかもしれない。

 いつだったか、僕の先輩の長沢さんが僕に言ったことを思い出す。

「ワタナベ、就活中は、就活のAVを見るといいぞ。周りに就活生がいる中帰ってきて、就活のAV見ると、めっちゃ抜けるから」

 そのときはやれやれ、と思った。そんなアドバイスを僕は真に受けることはできなかった。あるいは、だから僕は就活に失敗したのかもしれない。

 結局、その日に出会ったスーツを着た女子大生の残り香でマスをかいていた長沢さんは、デロイトトーマツコンサルティングに内定した。就活勝者だ。立派なものだ。彼はゼミの後輩にも慕われていた。

 僕はこれから、自分が就活を失敗した理由について語ろうと思う。

 しかし何はともあれ、これから就活に今こそ望むという鼻息荒い、有望な就活生や大学1,2年生諸君が、この文章を読んで得られることは何もないのだということを、初めに述べておきたい。

 結局就職活動で負けた僕には、今のところ差し出されるものが、何の価値もない自分の体験談しかないのだ。

 そして、今まさに就活で苦しんでいて、あるいはもう苦しみぬいて、あるいはただ自分よりも下の人間を見たくて、安心したくてたまらないという人間にむけて僕はこの文章を書いている。

 就活において僕が差し出せるものはそれしかないのだ。

 そう考えると、僕はたまらなく悔しい。何故なら僕は就活に対し、それなりの熱量をもって取り組んできたからだ。

 

 

  • 自信がなかった。

 

インターンの募集が終わるころ、僕はレンタル彼女と付き合っていた。彼女は僕より

一学年上で、MARCHの中の紫色の大学に通っていた。たぶん、付き合っていたと呼んでいいのだと思う。それ以外に適当な言葉を思いつけない。

 バイタリティが人一倍あり、大学に通う道すがらよくホステスや、AV女優や、キャバクラのスカウトがくるようなタイプの美人だった彼女は、アクセンチュアという就活生のあこがれのような企業に、六月を前に内定を得ていた。

 僕は今でも彼女の家で見たアクセンチュアの内定通知書を思い出すことができる。それは英語の格好いい紙で、額に入れて飾っておきたいくらいだった。

 これは完全な余談なのだが、僕の友達のお母さんが、池袋で心療内科の受付をしていて、患者の約三分の一はアクセンチュア勤務なんていうこと、そんなことはこのころ知る由もなかった。

 とにかくそのアクセンチュアに内定の決まっている彼女が、夏インターンで全敗をした僕を見かねて、彼女の同期の一人に合わせてくれた。

 彼女が連れてきてくれた男は、キズキという名前で、身長は172センチほどだったけど、もっと大きく感じた。短く刈った頭で、はきはきと、時にこちらが身構えてしまうほどの声量で話した。

「キズキはね、面接本当に強いから」

 キズキはキーエンスに内定していた。キーエンスといえば、今就活生に人気の企業の一つだ。二年目で年収一千万はいく、財務諸表が金ぴかの企業だ。

 キズキと話していて、僕はある一つのことに気が付いた。

≪こいつ……大したことない≫

 実際に学歴は僕の方が上だったし、語学スキル、そしてガクチカのスケールも僕の方が大きいと思った。

 でも彼は、自分がいかにすごいか、自分がいかに優秀かを話すのがうまかった。

 彼が中身のすかすかで見かけのよいピーマンだとしたら、僕は中身のつまり過ぎてブサイクな形になったトマトのようなものだった。

 すごくない体験を目を輝かせて、僕に語っていた。

 僕は、マウントを取られるがままだった。

 

 君に覚えといてほしいことがある。5パーセントの就活生、いや3パーセントの就活生は本当にすごい。

 彼らは起業し、部活した上で海外インターンをし、インフルエンサーを使って事業を起こしたりしている。

 ひとまずは彼らを無視しよう。

 そして残りの97パーセントの就活生は君と変わらない。どんぐりの背比べだ。

 でもどうして、就活でははっきりと明暗が分かれるのか。

 ヒントがある。朝井リョウという作家がいいことを言っている。

「就活は科目だ」

 これは本当にそうなのだ。就活は科目で、しかも体育みたいに、個人の天性の素質が、「5」をとれるかどうかに大きくかかわってくる。

 だから、自信を持ってほしい。自分なんて、と卑屈にならず、自分自身をもう、ブレインコントロールするつもりで、僕は君に就活に臨んでほしい。

 なぜなら、自分に自信を持つということは就活の結果の一つの境目だと思うからだ。これは、僕の所属するゼミを見てもはっきりと思う。外資コンサル、日経王手に内定した同期……対して、ベンチャー企業、地銀に内定した同期……

 はっきり言って、能力なんて変わらなかった。ただ、前者の方が、自分をより肯定しただけだ。ある程度の楽観をもって。

 だから、まずは自分を肯定することから始めればよかったのだろうと、今更ながらに僕は思う。

 内定先が変えられるわけでもないのに。