吾輩は芥川賞を全部読む。

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新潮新人賞受賞作『尾を喰う蛇』 長めのネタバレ

新潮新人賞受賞作『尾を喰う蛇』について、長め(約2000字)のネタバレを掲載します。

短めと、ツナ缶の雑感はこちら→

www.tunacanprotein.work

 

優秀な文学作品はどれもそうですが、こうして要約したところで救上げるものよりも、ボロボロと零れ落ちるものの方が多いですね。

是非、新潮を手に取ってよんでいただきたいです!

 

 

 

 

 1.作者について

 作者は中西智佐乃さん。同志社大学の文学部を卒業して現在は会社員をされているとのことです。朝ドラ「芋たこなんきん」を見たお母さんに、大阪の文学学校https://www.osaka-bungaku.or.jp/

へ入学を進められて、書き上げた二作目がこの『尾を喰う蛇』だったそうです。

 

2.作品について

 作者の中西さんがインタビューで述べられているように「仕方なかった」という言葉が随所に出てきます。戦争の暴力は、そして現代の弱者に降りかかる暴力は「仕方ない」ものなのか。

 実は、三月締め切りの純文学の賞の中で、一番「現代性」があった作品もこちらのように思われます。 詳しくはこちら→(https://www.tunacanprotein.work/entry/2019/10/25/223745

 

 

 

3.ネタバレ

 

 主人公の興毅は介護士として病院に勤めている。仕事は辛く、身勝手に休みを取りたいと主張するパートのおばさんたちにも腹を立てる。たまの休日には一人でラーメンをくい、別れた彼女、京子のことを思い出す。ただ職場には水野という若い介護士がおり、その子のことは気になっていた。

 ある日悲鳴が聞こえて駆けつけると、その水野がある病室からあとずさりして出ていくのが見えた。その病室は興毅が89とあだ名をつけた老人がいる病室で、89は暴れるし、介護士の言うことは聞かないしで問題児であった。そして水野は、その89という老人から慢性的に体を触られていた。

 興毅が89の面倒を見ることになった。89の同室には北口という老人もいたが、北口は優しい老人であった。ただ彼の左足には小指と薬指がなかった。満州で失ったのだという。興毅は北口の「満州で」という言葉にも「でたよ満州。」と嫌悪感を表す。まるでそこで自分が生き残ったことを偉いと誇示されているような気がするからだ。

 ただ北口は奇妙な夢を見るのだという。それは尾を喰う蛇が出てくる夢で、その夢にうなされることがあるのだという。

ある時、暴れだした89を力で押さえつけてから、興毅は周りを力で支配することに快感を感じるようになる。それと同時に戦争にも興味がわいてきて、頻繁に戦争の画像を検索するようになる。

 手取りは少なくても、興毅は毎月実家に四万円を送っている。実家には妹夫婦が暮らしており、妹の夫の稼ぎは少なく、貧乏らしい。そんな中、母から電話がかかってきて妹が二人目を妊娠したから、お金が欲しいという。興毅は六万送ってやる。

陽平という昔の職場の同僚から呼び出されて、彼が京子と結婚することを知らされた。そして京子を奪った陽平のことが、家庭から夫を奪ったという、人のよい老人の片岡に重なる。

 北口という老人の勧めもあり興毅が実家に帰ると、娘と母がファミリーレストランから帰ってきたところだった。

 金を送っているはずなのに、妹からは一言の礼もなく、ファミレスで無駄にごはんを残してきたことを聞いて、興毅は母がお金を送っていることを、妹には言ってないのではないか、と疑う。

 職場では、水野が二連休を取りたいのだと言っていたが、パートたちがそれを非難していた。興毅は身勝手なパートたちにも、取ると言い張れない水野にも苛立ちを感じる。

 結局、水野は二連休を取った。

 興毅はパートたちを威圧して押さえつけるようになり、そのこと自体を当然だと思い始める。

 水野が二連休から帰ってくると、お土産がスタッフの人数分以上あったが、興毅が食べることはなかった。誰かが二つ以上食べて、それを卑しいな、と興毅は思う。その時に、興毅は水野に彼氏がいることを聞く。水野の体を見て、やってきたのか、と興毅は思う。

 そんな折、母から電話がかかってくる。内容は妹が流産した、というものであった。珍しくない、と興毅は思う。自分の働いている病院でもよくあることだと。しかし、妹にはおること思わなかった、と思っていると、妹は流産したのは興毅のせいだ、と泣いていると母が告げる。そして出産祝い金の六万を返すともいわれる。興毅はでは毎月の四万はどうなのか、と腹立たしく思い、実家暮らしで甘えている妹に腹を立て、妹ばかりを認めて、自分の状況を見てくれない母にもいら立つ。

 89を押さえつけるための暴力は日に日に増していき、そんな折に水野が辞めることも聞く。そして興毅は、ますます戦争の画像を検索するようになり、戦争の画像を見ていると落ち着きを感じるようにまでなる。

そんな中、興毅は自分の暴力がばれそうになれ、嘘をつく。

 ある夜勤の日に、89の病室からうめき声が聞こえてくる。89のベッドを囲んだカーテンが震えていて、どうしました、と声をかけても収まらないからカーテンをめくった。

 その光景を見て、興毅はあとずさりする。中では、89がベッドの上で三角座りをしており、そして北口がベッドの横で立てひざをして、額を89の足の甲につけていた。

「もう少し、もう少しや」と89は言う。北口は怖い、怖いとつぶやいている。

「敵は全滅する。もう少しの辛抱や」と89は言った。

ソ連兵は来ない?」と北口が問う。

 あまりの光景にぼうっと立っていた興毅に、「そんなところにおったらあかんっ!」と89が吠えた。

 興毅は自分のせいか? と自問する。俺が力を加えたせいで、89たちはこんなにもおかしくなってしまったのだろかと。

 興毅は北口に詰め寄る

「北口さん、しっかりしてください! 北口さん!」

「蛇だ」と北口は言う。

「蛇はその後どうなるんや」

「尾を食べ続けるんだよ。その蛇は尾を食べながら生きていくことしかできないから……」

 北口と89は別の病院に送られる。

 一人の老人の退院を見送った後で、興毅は仕事に取り掛かる。シーツを取り換える作業をしながら、いつものサイトを、戦争の画像を見ようと思うのだった。

 

 


新潮 2019年 11 月号 [雑誌]