遠野遥『改良』
≪一分で分かるネタバレ≫
子供の頃に、バヤシコという少年に強要されてフェラをした私。
その私は大学生になり、美しさを求め女装の研究にいそしんでいた。アルバイト先のつくねという女性の家に行ったはいいが、そこからセックスに切り込むことができない。私はカオリというデリヘル嬢を頻繁に呼んでいたが、ある日女装する姿をカオリに見てもらおうとしたところ、そういうプレイが好きと思われてしまい、そのプレイ中に出た言葉に私は激怒して、部屋を出る。女装して歩いていた私は男に声をかけられ、無下に扱っていたら、多目的トイレに連れ込まれ、無理やり口でさせられる。彼を振り払った後で、私はつくねに会いに向かうのだった。
『改良』を読みました。文体はうまく、非常に読みやすいので、すらすら読めます。特に宇佐見りんさんの『かか』を読んだ後だと、読むのが非常に早く感じます。私は、中上健次といったような昔の人の作品は読みなれていないので、『かか』を読むのは少し苦痛でした。
『改良』の方が若干短いにせよ、そこまで枚数は変わらないはずなのに、スラスラ読めました。
性暴力の話ですね。
選考委員の一人の話にもあったように、遠野さんは、虐げられる女性の心理を非常にうまく描いています。
ほとんど全ての女性に共有されている感覚を、男性を主人公にして、男性が描いた、というところが、この作品が受賞したゆえんでしょうか。
でも、町田康さんと、村田沙耶香さんが指摘しているように、きれいに収まりすぎているきらいはあると思います。要するに、爆発力はないです。『かか』と比べると特に。
でも非常に読みやすく、そして楽しみやすいです。『かか』よりも大分。
一読をお勧め致します。
【より立ち入ったあらすじ】※ネタバレ含みます。
私は少年の時、バヤシコに連れられて公園に行く。それは青姦している大人のカップルを見るためであったが、そこで実際にセックスに及ぶカップルをみて興奮したバヤシコに、私は殴られ、フェラをするように強要されてしまう。
大学生になった私は、美しさ、というものにとらわれて、美しくなりたいと思い、女装の研究に余念がない。
友達もおらず、人とのかかわりと言えば、アルバイト先のつくねと、お気に入りのデリヘル嬢である、カオリくらいである。
私はある日、アルバイト先のつくねが、変な電話をかけてくる男に怯えているところに、男がいた方が安心だから、と諭し、つくねの家に行く。
つくねの家にいき、セックスの機会をうかがうが、私はできない。その代わりに、つくねは「自分がブスだから、色々なことをがんばっているのではないか」という思いを私に打ち明ける。
ある日私は、デリヘル嬢のカオリを呼ぶにあたって、女装した自分を見てもらおうと考える。カオリは最初こそ驚くが、美しい、かわいいなどとは言わず、そのことが私のかんに触る。
そしてカオリが、私がそういうプレイだと勘違いして言った言葉に激怒し、家の鏡を割ってしまう。カオリはなぜか出て行こうとせず、仕方なしに私が部屋を出て、店長にクレームを言う。
そのまま女装のままで歩いていると、男に声をかけられる。明るい場所で私が女装していることを見破られるが、そのまま私が男のことを無下に扱っていると、多目的トイレに連れていかれて、男に暴行を加えられてしまう。その時の男が思っていた行動理念、身勝手な思いは、私が抱いていたものと似ていた。
私は座った男にフェラをしはじめるが、自分がそれほど不快に思っていないことに気が付いてしまう。
しかし意を決し、男の性器にかみついたところ、首を絞められ、鼻を折られるが、私はなんとか逃げ出す。
そのまま私は、つくねが待つアパートへと向かうのだった。