吾輩は芥川賞を全部読む。

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【ネタばれ】『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』~村上春樹がもっとも影響を受けた小説の一つである。レイモンド・チャンドラーの長編小説~

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平成を代表する作家、村上春樹が影響を受けたと公言する小説が三つあります。一つはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』もう一つはスコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』そして最後の一つがレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』です。

 

実は村上はデビュー作の『風の歌をきけ』という作品は、このレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』をストーリーの下地においたのか? と問われてそれを認めています。

 

レイモンド・チャンドラーの代表的な長編小説ですが、たしかにその予想のできない展開と、感傷がないままに人が死んでいく様子は、どこか『風の歌をきけ』にも受け継がれているように思えます。

ギムレットには早すぎる」

「怒ると、どうするんだ? リスとタンゴでも踊るのか?」

「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ」

などという元ネタがこの小説と知らずに引用される言葉も数あります。

あらすじをまとめてみたところで、本作の面白さは十分の一も伝えられてないのかもしれませんが、まとめてみます。

しかし、ぜひ手にとって読んで欲しい……

推理小説好きな方はもちろん、小説家を目指す方も色々と得られるものが多い小説です。

 

【あらすじ】※ネタばれ含みます。

私立探偵のフィリップ・マーロウはロスの高級レストランの前で、ロールスロイスから放りだされ、酔いつぶれたテリー・レノックス介抱し、そこから二人の奇妙な友情が始まります。

テリーは実は、億万長者であるシルヴィアと結婚していて、金に不自由はなさそうですが、それでも頻繁に酒に酔いつぶれています。

ある日、マーロウのもとにテリーがやってくきます。

「メキシコのチュアナまで送ってくれ」

そう言った彼は手に拳銃を持っていました。

マーロウ「もし犯罪をおかしているならーーぼくが言うのは重大な犯罪のことだがーーぼくに話してくれては困る。二つーー何か重大な犯罪について君が知っているなら、それもぼくに話してくれては困る。チュアナへつれていってもらいたいなら、はなさないでくれ」

マーロウは理由を聞かずに、彼の言う通りに車を走らせます。

家に戻ってくると、警官が待ち構えていました。

「テリー・レノックスはどこに行った?」

マーロウは詰問され、殴られ、刑務所に連行され、そこでも殴られますが、吐きません。

そして刑務所でマーロウは、テリーが、奥さんで億万長者であるシルヴィアの頭を拳銃で撃ったのち、ブロンズ像でぐしゃぐしゃにしたという殺人容疑をかけられていることを知ります。

テリーのことは吐かずに、開放されたマーロウですが、そんな彼はあるニュースを聞かされます。

テリーはメキシコのホテルで、妻を殺した旨を告白する文章を残して自殺したのです……

こうしてテリーに関する事件は幕を閉じたかのように思われました……

 

テリーの事件のことを気がかりに思いながらも、私立探偵のマーロウには新たな仕事が舞い込んできます。

それは、アルコール依存症である人気作家ロジャーの面倒を見て、新作小説を書き上げさせること。

ロジャーは深酒すると、妻に暴力を振るったり、怪しげな(麻薬をすぐに処方すると評判の)クリニックにすぐかかったりします。

そんな彼は、どうやらある悩みがあり、そこからアルコール依存症になったらしいのです。

地右派このロジャー夫妻は、件の事件のテリー夫妻のご近所でした。

ロジャーの家に泊まり込んでいたマーロウは、ロジャーの妻、アイリーンの美しさに打たれ、一時は裸のアイリーンを抱きしめます。

そうして深くこのロジャー夫妻に関わるうちに、徐々にこの夫妻が抱える秘密が見えてきました。

実はテリーの妻、シルヴィアとロジャーは不倫関係にあり、ある夜にロジャーは酔って暴れ、シルヴィアを殴り殺してしまったらしいのです。

テリーが犯人ということで事件は終結していますが、ロジャーはこの事件のためにアルコールに溺れてしまいます。

そして彼はとうとう拳銃自殺を選んでしまいました……

が、マーロウはこの拳銃自殺を怪しいと睨みます。

そして彼はロジャーの妻アイリーンの前で自分の推理を話します。

実はアイリーンには、戦前イギリスで結婚していた別の夫がいました。

その夫は戦死して、ロジャーと結婚しますが、実はその死んだはずの夫は生きていました。すっかり変わった姿になって……

そしてその死んだはずの夫こそ、テリー・レノックスだったのです。

実はシルヴィアを殺したのは、アイリーンでした。彼女は元夫のテリー・レノックスを奪われたのが憎く、殺人を犯してしまったのです。

そして、現夫のロジャーは、彼の記憶こそ混乱していますが、アイリーンがシルヴィアを殺したところを目撃しています(普段は彼はこのことを思い出しません)

そうです。ロジャーは自殺ではなく、アイリーンに殺されたのでした。

そしてここで全てがつながります。

テリー・レノックスが無実なのにメキシコに逃亡したのは、かつての愛した妻を救うためでした。

ですが、真実が暴かれたアイリーンは服薬自殺してしまいます。

そしてマーロウの元に、ある男が訪ねてきます。

その男は、テリーの最期の様子を語るためにやってきました。

しかし、マーロウは見破ります。その男こそテリー・レノックス。彼は戦場で助けたギャングの力により、死を偽装していました。

親友との再会ですが、マーロウに喜びはありません。

なぜなら、アイリーンのために真実を告白しなかったが故に、ロジャーという第二の犠牲者を出してしまったからです。

そして2人は別れたのでした。

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「さよなら」

彼は向こうを向き、部屋を横切って出て行った。私はドアがしまるのをじっとみつめた。模造大理石の廊下を歩いていく足音に耳を傾けた。やがて、足音がかすかになり、聞こえなくなった。私はそれでも耳を傾けていた。……

しかし、彼は戻ってこなかった。私が彼の姿を見たのは、この時が最後だった。

 

 

 

 

 

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))