金髪の妻夫木聡が有名な『悪人』や『怒り』などの映画が有名な吉田修一氏の、これまた映画化された作品『パレード』ちなみに主演は藤原竜也でした。
五人の男女がマンションの一室に共同生活をする模様が描かれますが、それぞれの登場人物の造形、光と闇の描き方がうまい。
そして吉田氏お馴染みのハッとするような切れ味の鋭いフレーズが魅力のこの作品は、小説の魅力を十二分に備えています。ぜひとも原作を読んでいただきたい。
≪あらすじ≫※ネタばれ含みます。
この作品は、同じマンション一室に住む人物の一人一人が主人公の短編が五編集まってできたものです。
・第一章【杉本良介 21歳・H大学経済学部3年】
良介は長崎から上京してきた、現在東京のH大学の三年生。バイトに恋愛に遊びにいそしむ、典型的な大学生。唯一普通と違っているのは、彼がマンションの一室で共同生活を送っていること。
そんな良助のに暮らすメンバーは、絶世の美女の「大垣内琴美(23歳)」大酒ぐらいでゲイバー通いが好きな「相馬未来(24歳)」そしてこのマンションを借りている映画配給会社勤務の「伊原直樹(28歳)」
良助はマンションに帰る途中、階段で泣いている女子高生を見かけて声をかけますが、邪見に扱われてしまいます。
このことを琴ちゃんこと大垣内琴美に報告すると、彼女は売春が行われている、と言い張ります。彼女は有名な政治家が彼女らの暮らしているマンションの隣の部屋に入っているのを見たことがあると。
隣の部屋にはおじさんが住んでおり、ゴミ捨ての時は彼女らにあいさつすることもあるのだとか。
しかし、隣の部屋からはまた、喜んで帰る女性の姿を見た、と良助は言います。
しかしながら、二人は真相を暴く行動に出ることもありません。
そんな折、良介は仲のいい先輩から、先輩、先輩の彼女、良介の三人で旅行にいくことを誘われます。そしてこの旅行を通じて、良介は先輩の彼女、「貴和子さん」を好きになってしまいます。
良介は貴和子さんが、弟と一緒に暮らすマンションを特定してその周囲をうろつくストーカーまがいのことや、風呂に入るのも忘れる位の恋におち、貴和子さんが帰宅した時に、かなり不自然な形で彼女と旅行以来の再会を果たしますが、貴和子さんはそんな良介を部屋に上げます。そして、彼女と良介はその日のうちにセックスをします。
良介が目を覚ますと、弟と貴和子さんが朝食の支度をして待っていました。良介は貴和子さんの弟ににらまれながらも食事をとります。
その時、良介は泣いてしまいます。突然のことに、貴和子さんも貴和子さんの弟もびっくりしますが、良介は彼自身でも涙を止められません。
自分から切り離された、もう一人の自分が泣いているように感じるのでした。
≪つづきます≫