吾輩は芥川賞を全部読む。

読んだ本の書籍レビューが主です。作家になりたい大学生。来年から働きます。

【書籍レビュー】 Think CIVILITY(シンク・シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である。

 ども。

昔見たツイートで、思い出に残っているのがあります。英語のツイートだった。画像は見つけられませんでしたが、

「小売業、飲食店、スーパーで働かないならば、人間の本質は理解できない」

というようなツイートでした。

わかりみが深いですね。

 

 

 

コンビニでおでんをつんつんしたり。

 

居酒屋で金曜の夜にキッチンとホールの醜い争いをみたり。

 

ファミレスで店員に怒っているおじさんを見たり。

 

と確かに小売業、飲食店、スーパーでは人間の本質をフィールドワークさながらに観察することができます。

そんな、職場の無礼をテーマにした書籍がこちら。

 

 


Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である

 

久しぶりに自己啓発書読みました。

近所の本屋でランキング一位になってました。読んで思ったのが、

「これがランキング一位ってやべえな……」

 

とにかく本書は、「人には親切にしょう」という人間として当たり前のことを

膨大なデータと実例で解説しています。

 

 

 

 

【概要】

・礼節を欠いた職場ってめちゃ不経済やで

・礼儀正しいとこんないいことがあるで

・こうすればイッチの会社も礼儀正しくなれるで

・無礼な人に狙われたら、これを意識してみればいいんちゃうか

 

基本的に、今までまともな日本社会で生きてきていれば、第四部以外は

「せやろな……」っていう感じで、改めて読むまでもないような気がします。

礼節を欠いた振る舞いや会社が、どんだけ損をしているかひたすら解説する感じです。

そして信頼と実績の有名人の引用(マイケルジョーダンはどれだけ礼儀を重んじたかうんぬん)が小粋に挟まれる感じです。

 

ただ、第四部だけはわりに読む価値があります。

人生で、例えば職場や学校で、

すっげぇ嫌なやつだから一緒にいたくないのに一緒にいなきゃいけないときってありますよね。

そんなときの対処法を紹介していました。

今回は無礼な人に目をつけられた際の対処法七つのみを抜粋して紹介します。

 

 

【無礼な人に目をつけられた際の対処法】

 

≪方法1≫

目標を定め、進歩を実感する。

職場環境が悪くても、目標をもって日々実感することが大事。例えば、夜にMBA講座受けるとか。

 

≪方法2≫

自分を成長させてくれるものを見つける。

なんでもいい。ゴルフがどんどん上手くなっていくことが快感ならそれでもいい。

そういう上達を実感できていると、人生のストレスに強くなる。

 

≪方法3≫

メンターの助けを得る。

信頼できる人から助言を得て、客観的な視点を自分の中に取り入れよう。

 

≪方法4≫

食事、睡眠、運動、マインドフルネスを活用する。

体の病気を防ぐための行動は、精神の病気を防ぐためにも有効である。

 

≪方法5≫

仕事に意味を見出す。

意味が見出せれば、熱意が高まる。熱意が高まれば、ストレス耐性が高くなる。

 

≪方法6≫

社内外でよい人間関係を築く。

なるべく自分を笑顔にしてくれる人と過ごそう。

 

≪方法7≫

社外の活動で成功を目指す。

社外の活動での成功は気持ちにゆとりをもたらし、それはストレスに対する耐性ももたらす。

 

 この七つの方法は、ストレスの高い環境下に置かれたときの対処法として一般化できる気がする。

例えば、僕も就活の時にこの七つを意識していればもっとうまくいったのかも……なんて

 

 

 【まとめ】

普段から礼儀を重んじる、常識人のあなたにはあまり新しい発見はない気がする。

ただ、後半の無礼な人への対処法はありきたりだが、ためになるものではある。

 

 

 

 

 

『奈落』 古市憲寿 あらすじネタバレと感想 動けない歌姫の世界を描き切った作品  

 

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新潮 2019年 12 月号 [雑誌]

吾輩は蔦屋書店でぶらぶらと歩いていたら、新潮の12月号を見つけたのである。

そしたら古市氏の新作が掲載されているということ。とりあえず読んでみる。

 

 

・かつて歌姫で、今は意識はあるが体を全く動かすことのできない香織という女性。

 

・その香織を恨んでいた母、ねたんでいた姉、そして性的な目で見るようになった父、金を儲けようとする芸能の人々と香織を利用しようとする人々の思惑が交錯する。

 

 そんな作品であった。

 

『奈落』のあらすじと感想を勝手に書こうと思う。

 

 

※ネタバレ含む

 

 

 

 

1 簡単なあらすじ

私(藤本香織)は元歌手だったが、代々木第一体育館でのライブ中、足を滑らせて転落し、意識はあるものの肉体が全く動かせなくなってしまった。母は香織のことをよく思っていなかったが、事故当初は娘を心配していた。姉は香織のことが妬ましく思っていて、そのうちに香織のお金を手に付け、事故で動けない香織に代わって彼女の作品を手掛けていく。父は家でもおとなしい男だったが、動けない香織がリハビリ施設から実家に運ばれると、香織の性器を下着の上からまさぐったり、ペニスを挿入しようとする。

香織は彼らに対する怒りから意識を保ち生き永らえ、体は少しづつだが動くようにはなるが、自分の意思表示をできるようになるまで回復することはなかった。

 

2 登場人物

【香織】 主人公。歌手だったが、事故で全身を動かせなくなる。意識はあるが、それを表明できない。病院→リハビリ施設→自宅と物語上では暮らす場所が変わる。

 

【姉】 香織のことを疎ましく思っていた。香織が動けなくなってからは、香織の作品や本の企画に口を出すようになり、次第に芸能事務所などとも交渉するようになる。

 

【母】コミュニティで女王にならなければ気のすまない女性。

【父】口数少ない私立高校教師。

 

【海くん】香織と一時期デートしていた男。香織の作詞作曲も手伝っていた。

 

【帆波】香織と同時期にデビューしていた歌手。売れるために誰とでも寝ていた。

 

 

 

 

 

 

3 『奈落』あらすじ(ネタバレ含む) ※各章の〈〉内の数字は香織が動けなくなってからの日数。

 

〈6139〉

 動けない私(藤本香織)は自室の天井の穴の数を数えていた。そこへむかしの友人の海くんが表れて、朝食を私に見せつける。そのあとで、ミキサーにかけて、それを香織に飲ませた。

すぐに口を閉じてもういらないことを示す香織に、母は、もっと食べなきゃだめだよという。

香織はそんな母のことを軽蔑していた。

母はどこにいてもコミュニティの女王になろうと躍起になっていた。そんな母が、香織は嫌いだった。音楽をやったのも、実家から出る手段が欲しかったからだ。

 

〈9〉

香織の元に姉がやってくる、ガムをかむ音がうるさいと、香織は感じる。

香織は姉も嫌いだった。依存体質で、付き合おう男によって服を変えるような主体性のなさ、依存先を常に探して生きているような生き方が。

それになにより、姉といると自分のルーツは姉のような人間と同じであると思い出させられるのが苦痛だった。例えば嫌だったものの、一生に何回もないからと行った姉の結婚式で、酔った男に服の中に手を突っ込まれたけれど、警察に行くと声を荒げた香織を回りの人間は冷たく見ただけだった。芸能人が冗談を本気になって騒いでいる、と。

 姉は姉で、香織のことが憎かった。いつも主役の座を自分から奪ってしまうからだ。だから香織が事故にあった時も、何も感じることはなかった。

 

〈13〉

 昔作詞作曲を手伝ってもらい、恋心のようなものも抱いていたけれど、結局キスもすることができなかった海くんがお見舞いに来る。

 動けない中で、肛門のほうに感覚を感じて香織は自分がおむつの中に排泄しそうなことを悟る。海くんの前で排泄はしたくないと、我慢しようとするけれどもできずに、香織は自分のおむつに排泄されたのを感じる。

 その時、海くんが香織のことを覗き込むように顔を近づけてキスをした。自分が好きだった人との初めてのキスがこんな形でなんて……と香織は恥と屈辱の感情に襲われる。

「目を覚ますと思ったんだけどな……」と海くんは言った。

 海くんは香織とキスしたことを公開していた。彼女の口からは腐ったザクロのような臭いがしたからだ。彼はそれを死人の匂いだと思った。

 

〈33〉

 香織は姉も母も父も嫌いだった。だから、モデルになれるほどのルックスもなかったし、小説を書くほど文学にも興味をもってなかったから、音楽を始めた。

 医者がやってきて香織のことを群馬の病院に移してはどうかと提案する。医者たちは、香織に意識があるのかどうか、疑わしく思っている。そんな医者の中でも、若い一人の医者は、香織に意識があるだろうと思っていた。彼は香織に語り掛けた。彼によると、昔香織の曲を聴いて泣いたことのあるファンだという。彼は、群馬の施設に移ることには反対する。

 

〈76〉

 若い医者の勧めもあって、香織は群馬の病院ではなく新宿のリハビリ施設に移ることになった。移動中の車の中で、特集されていた自分の曲をきく。車の中では姉と母が言い争っていた。

「姉は香織の金に手を付けないって本当?」と母を責め立てる。

 

〈171〉

 新宿のリハビリ施設の一室で、姉が香織の会社のチーフマネージャーである岸根に印税率の交渉をしていた。岸根はうまく姉を言いくるめていたが、姉もできるだけ金を得ようと必死に食い下がっている。

 香織はだれにも聞かれなかったけれど、小さなうめき声を事故の後で、この日初めてだした。

 

〈252〉

 リハビリ施設に入って177日目。やっと指先が少し動いてきて、流動食なら口に流し込んでくれるのであれば、自分で食べることができるようになる。しかし、お金がかかるという理由から、香織はリハビリ施設から実家の自室に移される。

 

〈386〉

 自室にいる動かない香織のもとに父がやってくる。香織のことをじっと見つめて、香織は何かと思うと父は彼女の胸に顔をつける。そのまま、顔は下へ下へと下っていき、ついに股の間に顔をうずめた。

 香織は気持ちが悪いと感じるが、抵抗ができない。ついに父は、香織のパンツの中にも指を突っ込んだ。

 父は、濡れた指先を見て、自分が何か今、とんでもないことをしてしまったのではないか、と思う。

 

〈998〉

 香織にとって久しぶりの外出をする。同時期にデビューした、帆波という女性アーティストのライブに連れていかれた。

 帆波がデビューした当初は香織よりもはるかに人気がなかったけれど、彼女は自分が売れるために誰とでも寝たから、香織は彼女のことが嫌いだった。

 アンコールで予想外に自分の名前が呼ばれた香織はドキリとする。帆波は、香織が自分のために作った歌を最後に歌うと宣言した。香織はそんな歌を作った覚えもないから、自分の残した歌を勝手に使ったのだと、怒りが体を駆け巡るか、体は動かせない。しかも曲も完全に自分のものではなく、アレンジを加えられていた。実はその曲は、海くんと帆波が、香織の曲をもとにアレンジを加えて作ったものだった。

 

〈2500〉

 デビュー10周年の日だった。海くんが香織のもとを訪れる。ずいぶん律儀なものだと思うが、海くんは香織に結婚の報告をしに来ていた。帆波と結婚するのだという。

 

〈3448〉

 香織は父の自室に忍び込んだ時を思い出していた。彼女は父が郷里の両親にあてた手紙をこっそりと読む。そこには、自分がいま幸せであると書き綴ってた。実際には母の言いなりになり、姉にも香織にも好かれてはいなかったのに。

 そして今から907日前、リーマンショックの日の夜に、父は香織にペニスを挿入しようとしていた。けれども、彼はひっしになって自分の性器をたたそうとしていたけれどもそれは何か魂を失った生き物みたいに垂れ下がるだけで、挿入には至らなかった。

 そして今、父はいつものように下着の上から香織の性器を触っている。その時だった。自分の体が揺れているのを香織は感じた。彼女は一瞬自分が動けるようになるのかと思ったけれど、動いていたのは彼女の体ではなく地面だった。

 それは東日本大震災だった。東京でもその映像が徐々に見れるようになるにつれて、香織はその映像を見ているときに涙してしまう。それは自分もああやって死にたいと思うが故の涙だった。

 

〈6517〉

 2019年の8月5日。海くんがデビュー記念の日に光希くんという男の子を連れてくる。映画配給会社の見習いで、香織の映画を作りたいのだという。彼は香織の状態に絶句しながらも、香織の映画を作ろうとする。そして知り合いの鍼灸医師の先生を連れてくると約束した。

 

〈6538〉

 光希くんは蔣先生という上海出身の鍼灸医師を連れてくる。先生は「絶対によくなる」と断言するが、母は先生に言われた通りに漢方薬を処方することをしない。先生は、香織が異常な環境に置かれているのを察するが、何も手だしはできない。そんな先生に、姉と母は、自分の体の調子を整えてもらおうとお願いする。先生と光希くんはそんな彼らを見て絶句する。

 

〈6552〉

 香織は病気になってから一度もスマートフォンを見たことがなかった。ある日母がやってきて、父が香織に手を出していたことに気が付いていたという。でも母は、それを香織が悪いと思い、再び香織のことを憎むようになっていた。

 母は、最近香織のもとに父が訪ねてこないのはなぜだと思う? と聞く。そして香織に鏡を見せる。おぞましい自分の姿を香織は見た。

 

 光希くんが企画していた映画化が決まった。その臨時収入で香織の部屋は改装される。いままで香織とかかわりのあった人物が部屋に集まっている。香織は、もう怒りを感じることはない。意識と夢がゆっくりと混ざり、はっきりとした怒りを感じることはできないのだ。

 最後に香織は、あの日、代々木第一体育館のライブで落ちた日、奈落の底から見上げたような白い宙を前に目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

4 感想

 

視点がくるくる変わる。香織だったり姉だったり父だったりする。確かに香織が全く動けないことを鑑みると、そうするしか小説は進まないか。

でももっと短くてもよかった。

というのが至極正直な感想で。描写力とか、古市さんの物語を作る能力はもうプロの作家として平均以上の域に達していると思うが、いかんせん不要な描写が多い気がした。

あと、香織かわいそう。

とにかく香織の周りにはろくな人間がいない。

お母さんは香織を直そうとしないし、姉は姉で香織の金を使って金儲けのことだけ考えているし、お父さんはお父さんで、動けない香織のパンツをまさぐる。

特にお父さん。動けない娘のパンツを探るくらいなら、もっと大きくインパクトを残す悪になってもよかったのでは。

でも序盤の、香織が動けなくなったところに海くんといういい感じだった男の子がやってきて、香織が排便を止められない中で動けない香織に初キスするシーンはよかった。そこは本当に良かった。そんなシーンがいくつもあったらもっとよかった。

5 まとめ

 三回目の芥川賞候補になるかどうかですが。どうだろう……候補までは言っても、受賞まではいくかしら。『平成くん、さようなら』のほうがよかった気がするけどなぁ。

 ジャンルで言うと、おそらくは介護モノに入ってしまうのだけれども、介護モノは純文学では結構やりつくされていて、その分レベルも高い。今年新潮新人賞を受賞した『尾を食う蛇』も介護ものだった。

新潮新人賞受賞作『尾を喰う蛇』 長めのネタバレ - ツナ缶とプロテイン

 

 結論

序盤の排便しながらのキスシーンは本当にいいからそこだけでも読んでほしい。


新潮 2019年 12 月号 [雑誌]

 

 

村上春樹 『品川猿』 小説レビュー

 

ザコンだと、昔の彼女に言われたことがあります。

いや、直接言われたんじゃなくって、マザコンだと彼女が述べていたという趣旨のSNSのつぶやきを共通の知人に提示されました。

まぁ、結構な言われようでひどかったですね。それなりに傷つきましたよ。ええ。

自分がマザコンなのかはわかりませんが、(一人暮らしをしていますが、ここ一年ほどは実家に帰らず、半年に一回くらい母に電話はします。あと、誕生日プレゼントを母にあげたことは、大きくなってからはありません。おめでとうのメールはしますが)

まぁ、女性に対して病的に気が使えないところがるので(これは本当に改善したいのですが)

それが、その彼女さんには、

「どうせ、君のお母さんなら笑って受け入れてくれるから。お母さんみたいな人がいいんやろ」的なことになってしまったようです。

 

ザコンってすごく評判悪いですよね、でもおばあちゃん子ってすごいイメージいいですよね。

不思議。

 

まぁ、今回はそんなマザコンにも関係する、いわゆる「両親の愛情」がテーマになっている村上春樹の作品を紹介します。

 

 


東京奇譚集 (新潮文庫)

 

 

 

 

この東京奇譚集という短編集に収められている『品川猿』という作品です。

持論なんですが、そして異論は認めますが、村上春樹は短編小説が本当にいい……!

「蛍」「納屋を焼く」そして、今回の『東京忌憚集』に収められている五作……

そして忘れてはいけないのが、「四月の朝に百パーセントの女の子に出会うことについて」

これも最高なんですよね。

また紹介したく存じます。

 

まぁ今回の「品川猿」これは私の大好きな物語です。

と、いうのもこの物語は、物語世界を超えて、現実に生きる私におおきな気づきをもたらしてくれたからです。

以下、あらすじ(今回はネタバレしていません)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

安藤みずき(結婚前の名前は「大沢みずき」)は、1年ばかり前からときどき自分の名前が思い出せなくなった。相手から出し抜けに名前を尋ねられると、頭の中が空白になってしまう。名前がどうやっても出てこない。夫はみずきより4つ年上の30歳で、製薬会社の研究室に勤務している。二人は品川区の新築のマンションに暮らしている。

 

ある日、品川区の広報誌を読んでいるときに、区役所で「心の悩み相談室」が開かれているという記事が目にとまった。みずきは区役所に赴き、カウンセラーの坂木哲子の面談を受ける。坂木に「名前に関連して思い出せる出来事はあるか」と問われ、高校生のとき1学年下だった松中優子という生徒に関する、あるエピソードを思い出す。

 

みずきは高校の時、寮生活をしていた。彼女が三年生になり、松中優子という「私たちの寮の中では間違いなくいちばん美人でした」という子がみずきに名札を預かってほしい、と言う。みずきは不思議がる、なぜ自分が彼女の名札を預からなくてはならないのか。それでも彼女は了承する。

 

松永優子が寮に戻ることはなかった。彼女は自殺してしまったからだ。

みずきは

「いないあいだに猿にとられたりしないように」と松中優子が最後に言った冗談が気がかりだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

なぜみずきは寮生活をしていたのか、なぜ名前が思い出せなかったか。

ラストでは明らかになりますが、村上春樹作品の中で、珍しくはっきりとしたオチです。そして、私個人的にとても好きなオチです。

このネタバレは、どうかご自身でお確かめになっていただきたい……!

それくらい傑作だと思います。

 

明日もいい日になりますよう。

 

 

第159回芥川賞 高橋弘希 『送り火』 ネタバレ

 吾輩はまだ青森に行ったことがないのである。今日は、田舎の美しい自然の中に潜む狂気を描いた作品、『送り火』について書こうと思う。

 

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送り火

 第159回、平成30年、上半期の芥川賞高橋弘希さんの『送り火』であった。この回は直木賞の島本理央さんの受賞も注目された。島本さんは若くしてデビューし、芥川賞の候補にもなったことのある作家である。最近だと、『ナラタージュ』が有村架純松本潤が主演で映画化されたことも記憶に新しい。

 今回は、その高橋弘希の『送り火』について解説、ネタバレしていきたい。

 

 

 

 

 1.作者について

 作者は高橋弘希さん。現在は予備校の講師をしているらしい。そしてオルタナティブ系ロックバンドで作詞作曲も担当しているとのことだ。

 音楽的なバックグラウンドのある作家というと、思い出されるのが町田康である。町田康は、もともとパンクバンドのボーカルとしても活躍していたが、その後『くっすん大黒』で作家デビューし、『きれぎれ』で芥川賞を受賞した。

 

 

www.tunacanprotein.work

 

2.作品について

 作者は小さいころに青森に住んでいたという。その体験が反映された部分も、少しはあるのだろう。作中に見られる青森の田舎の描写はリアリティを帯びて美しく目の前に浮かび、それによりいっそう、暴力のシーンを際立たせることに成功している。高橋氏の筆力は疑いの余地がない。

 

 

 

 3.あらすじ(ネタバレ含む)

 東京の郊外に住んでいた中学三年生の歩は、商社勤めの父の影響で青森の平川というところに引っ越すことになる。転校先の市立第三中学校は、歩の代の中学三年生男子は合計で六人しかおらず、中学校も来年で廃校になることが決まっていた。

 歩は転校してすぐに晃という、中学三年生のグループの中でもリーダー格の男が昨年起こした暴行事件について聞く。中学二年生の夏休み前に、晃が技術家庭の授業で扱った十センチ四方の鉄鋼で稔という同学年の男を殴打したというものだった。

 転入して一週間が過ぎたころに、歩は放課後に晃たちが花札をして遊んでいるところを見かけて、晃に手招きをされる。なんでも今度暴行事件のあった隣町にあそびに行く。護身用のナイフが必要だから、花札で負けた一人が盗む役をやるということだった。燕雀(エンジャク)という花札を使ったゲームで、負けたのは稔だった。そして稔が盗んできたナイフをだれが所持するかで、また燕雀をして決める。勝者は歩だった。歩が手にしたナイフは実際より重く感じられた。

 この花札の一件を機に、歩はクラスに打ち解ける。窃盗の件で歩は彼らがこれまでにかかわったことのない悪童かと思っていたが、なんてことはない好奇心からくる万引きで、その後に盗みが行われることはなかった。

 ある日、理科準備室のカギが開いていたので歩や晃たちが入り込むと、そこには薬品が並んでいた。劇薬と書かれたものもある。その放課後、いつものように歩たちがたむろしていると、途中で晃が便所に行ってくる、と抜ける。ずいぶん長い便所だなと思っていると、晃が手にしていたのは木製の試験官入れだった。七本あり、そのうち六本には白い液体、一本には透明な液体が入っていた。

 晃はその透明な一本の液体を少し、コンクリート上の捕まえてきたバッタにかけた。バッタは飛び立とうとしたがそれは果たされず、たちまち焼き焦げて動かなくなる。晃はコンクリートに茶褐色の小瓶を置いて含み笑いを浮かべる。その小瓶には硫酸と書いてあった。

 久しぶりに回転盤でもするか、と晃が言う。聞くと、六本の牛乳が入った試験官のうち一本には硫酸が混ざっているという。そうした六本のうちに一本外れがある遊戯を回転盤と呼んでいるらしかった。

「でも、どれだけのやけどを負うかわからないし危険だよ」と言った歩は、その声が思いのほか自信を帯びており小さな満足を得るが、晃に「なにつまんねぇことを言っちゅうんず?」と一括されて終わる。

 心臓の鼓動が早まる歩をよそに、勝負はあっけなく終わる。またも稔が敗者になって一本の試験官の液体を手の甲に垂らされる。なんの変化もない。そのあとで晃は、実はどれにも硫酸が含まれていなかったのだ、と種明かしをする。みんなが安堵したその時、晃は硫酸と書いてあった小瓶を開けると、稔の上からドバドバとかけた。皆の表情が凍り付く中、稔だけが不動で顔から液体を滴らせていた。

 六月に入り、歩は晃が稔に対し暴力を加えることで快楽を得ていることを確信するようになる。結局あの日、晃が稔にかけた液体は、ビンの中に入った砂糖水だった。

 そんな中、男子六人で相撲ととる遊びをしようということになる。藤間という男子生徒が稔を投げると、彼はライン引きに衝突し、頭から石灰を被る。

「なんだおめぇ、乞食(ほいど)みてえじゃねか」

 という男子の笑いは伝染し、投げられた稔自身も薄笑いを浮かべていた。それで歩も薄笑いを浮かべようとしたのだが、そこに割って入ったのが晃だった。晃は「稔のどこが乞食なんだ! ふざけんな!」と叫ぶ。相撲はそれで終わった。

 晃は男子の中でも体格はよかったが、指だけは女のようにきれいだった。だから歩は、晃が花札で遊ぶ際に不正をしていることに気が付いてしまう。稔は、負けるべくして負けていた。

 ある日、汗だくになって稔が缶ジュースを買ってきたときに、稔のことを不憫に思った歩は、飲みさしのコーラを彼にあげた。

 気温が三十度を超えるようになったころ、晃は彼岸様という遊びをしようとする。これには、回転盤や窃盗と違い、みなが不快感を示していた。なんでも、屈伸運動(スクワット)をした後で、縄跳びの紐を首に巻き付けるらしい。そうすると、「彼岸様」が見えてくるのだそうだ。花札で、やはり稔がすることに決まる。

 稔は薄笑いを浮かべたまま屈伸運動をし、そのあとで、縄跳びの紐も二重にして首を絞めた。晃はそれだけでは足りないと、紐を三重にしてしめる。稔の顔色が、赤から赤黒に変わり、泡を吹き始める。そこで藤間が晃を突き飛ばして、なんとかやめさせた。それでも晃は、不思議そうに子どもの顔をして藤間を見ていた。

 その藤間は、後日救急車で運ばれた。給食を食べた後の5限後、体調不良を訴え嘔吐したのだ。歩は晃が硫酸を給食に混ぜたことを疑うが、なにも証拠はない。

 納屋を掃除していた歩と母は、チャッパという楽器を見つけた。シンバル状の楽器だが、叩いて鳴らすのではなく、すり合わせて鳴らすものらしい。母が鳴らすとそれはシャンシン、シャンシン、と音がした。

 夏休みになり、歩は受験勉強をしていた。その合間にいった公衆浴場で、歩は晃にであう。そこで歩が昨年の晃の暴行事件の真相を聞くと、「稔が自分の人権を侵害したから殴った」と晃は言う。

 晃の言うことを聞かなかったから、稔を殴ったのだと。

 夏休みの昼下がりに、歩の家の電話がなる。それは晃からで、市街地にカラオケをするかたこいという電話だった。

 母からもらったお金を手に歩が待ち合わせ場所まで行くと、そこにいたのは晃と稔以外の第三中学校の同級生男子と作業着姿の男だった。

 作業着姿の男についていくと、森の奥の、教室ほどに開かれた場所に案内される。そこにいたのは塗装で汚れたツナギ姿の男たちと、顔を腫らされていた晃だった。なんでもツナギを着ていた男たちは第三中学校の先輩らしい。

 花札で、サーカスなる遊戯を歩たちのだれかがやらなくてはならなくなる。サーカスとは、後ろに手を縛られた状態でボールに乗り、右に三メートル、左に三メートル動くというものだった。縛られているためバランスもとりにくく、受け身をとることもできない。

 花札で負けたのはまたもや稔だった。ツナギを着た男にフォークのような形をした農具で尻を突き刺されながら、稔は「サーカス」をする。たちまちに鼻を打ち、稔の鼻血で地面が染まっていく。

 そのうちに稔を後ろ手で縛っていた縄がほどけた。歩が見ていたのは、向こう側の晃の表情だった。彼は茫然としたかと思うと、歩に向かって突進してきて、歩の横をすり抜けて森の外へと走った。

 縄が解けた稔は、ナイフでもってツナギ姿の男を一人刺した。散り散りになって逃げる男たちだが、歩は逃げ遅れてしまう。その時に歩は、晃が稔に対する恐怖で逃げたのだと理解する。藤間の給食に硫酸を仕込んだのも稔なのだと。(おそらく、晃に対する自分でもできるという当てつけのために)

 稔は錯乱していた。僕は晃じゃない! と歩は叫ぶが、半円状の、食肉を裁断するための用具を拾って振り回す稔に対し、歩は手のひらを切り裂かれ、次に腿を割かれた。

 逃げる途中で坂道を転がり落ちた歩は、意識を失う。

 気が付くと、歩の半身は川の水に浸されていた。頭も打ったようで、焼けるように熱い。体は冷たいにも関わらず。気持ちが悪くなって歩は嘔吐する。まぶたは血で糊付けされたように開かない。

 頭を打ったせいか川の流水音しか聞こえない。しかしはるか遠くでシャンシン、シャンシンという音がなるのを、歩は聞いた。

 

 

4.まとめ 

 高橋氏は非常に筆力が高く、それ故に美しい自然と残虐な暴力の描写が交互に出てくる本作は、読者にまるで暗闇に照らされた送り火のような鮮烈な印象を残す。

 純文学が文でもって描かれる芸術なら、間違いなく『送り火』は芥川賞に値する作品である。

 ぜひご一読を進める次第だ。

 

 


送り火

 

 

グーグルアドセンス 合格レポート(^^♪【2019年11月4日】

吾輩は一人で小躍りしたのである。今日の夜七時頃、メールボックスを開くとこんな表示が出てきた。

 

 

 

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グーグルアドセンスの審査に通ったのである。

吾輩は実はアドセンスの広告を出すのはあきらめかけていて、眠れないから日曜日の早朝の午前六時くらいにアドセンスの申請をした。気まぐれだった・

グーグルの仕事は早かったよ。なんせその日の夜七時に合格通知が来たからなぁ。

なお、英語なのは吾輩のいつも使用しているアカウントの設定を英語にしているからである。オーストラリアで作ったアカウントだからなぁ。当時は英語の勉強のために英語にしたんだ。これを見ている読者諸君の中に、もし同じようなことをしている人がいるとしたら、グーグルアドセンスの申請前には代えておけと吾輩はアドバイスをしたい。申請後の説明読むのとかすごく面倒くさいんだ。英語だと。吾輩は激怒したよ。もちろん昔の自分にだ。

 

閑話休題

吾輩はアドセンスに受からなかったときに、いろいろなブログがいろいろなことを言っているのを見てきた。だから今日は、吾輩が受かった状況をもとに、巷のうわさが正しいか検証しようと思う。これからアドセンス申請をしようとする読者のお役に立てれば幸いだ。

 

 

 

 

 

独自ドメインが必要

⇒たしかに必要だった。

 

・審査通過には2週間~1ヶ月かかる

⇒嘘である。12時間ぐらいで審査結果きた。

 

 

・他社広告は貼りっぱなし

⇒吾輩も張りっぱなしだった。主にもしもアフィリエイトと、忍者アドマックス張ってた。忍者アドマックスの広告は吾輩が自分のサイトを見ているときはガンガンに風〇嬢の広告が出ていた。というか、それしか出てなかった。吾輩の本性がインターネットにばれているみたいで、なんだかへこんだ。

 

・アフィリリンクは入れないのが無難

⇒だいたい1記事に一つは入っていた。

 

・2週間ルールは無視

⇒前に申請してからなんだから二週間は経っていた。気がする。たぶん。

 

 

・40記事は作成したほうがいい。

⇒申請時点での記事は33記事であった。

 

・1記事当たり1000文字以上

⇒これはそう。そして申請の直前の記事はだいたいどれも3000字前後であった。そして申請直前の記事は書籍レビューというジャンルに絞っていた。

 

 

Googleアナリティクスの導入&Googleサーチコンソールの導入

⇒なんのこっちゃ。

 

・サイトポリシーを設置

⇒した。ただし吾輩はインターネットで拾ってきたのをそのままはっつけた。

 

サイトマップを設置

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・記事の方向性を修正

⇒してない

・記事のタイトルを修正

⇒してない。

・プロフィールページの修正

⇒してない。プロフィールほとんど書いてない。

 

・ヘッダー画像を小さくした

⇒してない。

 

・お問い合わせフォーム

⇒ない。

 

・画像を削除

⇒していない。Unsplashという無料画像サイトをめっちゃ使ってた。

 

だいたいこんな感じである。

最後に吾輩の所感だが、やはりテーマを絞って専門性を出すのが合格につながるのではないか、と思うのである。合格直前の記事はすべて芥川賞作品のレビュー記事であった。

あと、SEOがグーグルアドセンスの合格に関係するのかはわからないが、吾輩の一つの記事は、グーグル検索で1ページ目に来るようになっていた。この記事である。

宇佐見りん『かか』 ネタバレ 【傷を抱えた少女は熊野へ旅立つ】 - ツナ缶とプロテイン

 

 

 

もしかしたら、これらも合格に関係するのかもしれない。まぁ、まとめると、

① 巷のグーグルアドセンスにまつわるうわさは不確か。

② それゆえに、専門性を意識した記事を執筆しながら気まぐれにグーグルアドセンス申請をする。

 

という態度がいい気がする。

今日もいい日になりますよう。

 

 

 

 

 

綾野剛×松田龍平で映画化! 『影裏』 ネタバレ(第157回 芥川賞受賞作)

 

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吾輩は、貨物列車ではない二両編成の電車が走るような田舎で育ったのである。今日は、そんな二両編成の電車が走るような田舎、岩手が舞台の芥川賞受賞作『影裏(えいり)』について書こうと思う。

 

 

『影裏』

 第157回、平成29年/2017年上半期の芥川賞は沼田氏の『影裏』が受賞した。今作は来年2020年に映画化されることが決まっているらしい。綾野剛主演らしいんである。吾輩はなんだか思うのだが、吉田修一作品には綾野剛が呼ばれることが多いなぁ。『楽園』も『怒り』綾野剛が出ている。作品や吉田修一氏の作り出す世界観とマッチしているのかもしれないなぁ。

(『影裏』映画サイトURL https://eiri-movie.com/

 

 

 

 

 

1.  作者について(歴史や背景)

 作者は沼田真佑氏である。氏は処女作にして文学界新人賞を受賞し、そのまま芥川賞も受賞した。この文学界新人賞芥川賞という賞を連続でとることを石原慎太郎コースという。これは、『太陽の季節』で文学界新人賞を受賞し、そのまま芥川賞を受賞し話題をかっさらった、石原慎太郎に端を発している。

 岩手が舞台だが、作者自身、現在東北に住んでいるそうだ。なお、一番好きな小説は、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』らしい。

 

 

2. 作品について

 この作品は作者のデビュー作であり、今のところ出ている沼田氏の唯一の書籍である。この本を、ある程度の読書経験がある人が読めば沼田氏が新人だということに驚きを隠せないと吾輩は思う。

 芥川賞の選考会においても、たびたび「技術は新人ばなれしている」という旨の発言が出てきたが、本当にそうなのである。

 吾輩のように小説家を志す人間は、教科書として持っていてもいいかもしれない。

 沼田氏が新人賞を受賞した理由は極めて明確で、「プロ並み(もしくはプロの平均以上)の描写力」そして「上品、いや上質ともいえるような伏線の張り方」だと思う。

 のちのネタバレでも触れるが、エピソードの張り方と回収の仕方がうまい。吾輩は舌をまいたよ。

 

 

 

3. あらすじ(ネタバレしてます!)

 

 わたし(今野)は東京から転勤で岩手にやってきたが、そこでは日浅という友人を作り、釣りに興じて充実した生活を送っていた。

 しかし二月のある日、日浅が突然に退職してしまったことを、わたしはほかの職員づてに知る。わたしは日浅が職場でよくいた場所をうろつくほど、寂しさを覚えていた。パートの西山さんに、またこの人来たよ、と言われるほどわたしは職場をうろついていた。

 四か月たったある日、日浅と再会するけれども、その再開は二十分で終わってしまった。日浅は転職して、積み立て型の冠婚葬祭を売る会社、互助会の営業マンになっていた。日浅から渡されたパンフレットには、立派なチャペルで結婚式を挙げる新郎新婦が映っていた。

 あくる日、わたしのもとには珍しい連絡が二件入る。一件は東京にいたときに一緒にいた男、和哉からで、もう一件は妹から、近々結婚するかもうということだった。(注:ここではじめて私がホモセクシュアルだとわかる。)

 四か月ぶりに日浅と再会した十日後に、わたしは再び日浅と会っていた。彼の営業ノルマが足りないから、わたしに加入してほしい、というのだ。

「実際月二千であの式場は魅力だと」と言いながら、私はサインをする。わたしがつかうことはないかもしれないにもかかわらず。

 そしてパンフレットでみた、花嫁の笑顔が妹や和哉のそれと重なった。わたしはなぜだか新郎の顔を思い出せなかった。

 日浅との久々の釣りを約束していた日、わたしは日浅と喧嘩する。日浅がわたしにいちいち難癖をつけて、わたしのほうも意地になってしまっていた。日浅と別れた後でわたしは一人部屋に戻り、道具を片付けながら日浅のつけた難癖を思い出していた。

 そしてわたしは、和哉に電話をかけて久々に話をした。電話越しの和哉の声は、記憶にはない女性の声だった。そこでわたしは、別れる直前の夏に和哉が、性別適合手術を受けようとしていたことを思い出す。

 東日本大震災が起きて、わたしのもとには安否確認の連絡が来るようになった。妹からも電話が来て、なんだかくたびれた声なので様子を聞くと、こちらよりもむしろ都会のほうが日用品などが不足しているとひとしきり嘆いた。わたしはリストをくれたら必要物資を送ってやると、言う。

 その電話のなかにはしかし、日浅はなかった。

 連休明け最初の勤務で帰ろうとしているわたしの車に、急にヘッドライトに人影が照らされて、わたしは急ブレーキを踏む。見るとパートの西山さんだった。

「これからお時間もらえないか」と彼女は言う。

 ログハウス風のベーカリーで西山さんは

「課長、死んじゃったかもしれないよ」という。

 彼女のいう課長というのは、日浅のことだった。

 わたしがよくよく話を聞くと、西山さんも日浅のために、自身の分、夫の分、長女の分まで互助会に加入して、加えて35万円ほど日浅に金をかしていたという。少しづつ返してくれれば、と思っていたのであるが、地震を機に状況が変わった。少しでもお金を返してほしいが、日浅のほうは音信普通。会社に電話をかけてみると、行方不明だという。日浅はその日、釜石に出かけていたそうだ。

 なじみの居酒屋やガソリンスタンドなどを出向いても日浅の足取りは一向に得られず、わたしは日浅の実家を訪問することにする。

 日浅のよりも頭一つ分大きな日浅の父は、

「次男とは縁を切ったんですから」と言った。

 彼から渡されたのは、卒業証書だった。わたしが訳が分からずいると、日浅氏は、

「偽装したのです」という。

「あのばか者のためにどなたの手も、わたしは煩わせる気がおきんのですよ」と言って日浅氏は捜索願を出すことを拒否する。

「絶縁するほどのことでしょかね」漠然とした怒りに駆られてわたしはいう。

「入学金、下宿代、仕送り、半期に一回の学費の80万円……これは立派な横領罪だ」と日浅氏は言う。

「しかし四年も気が付かないとは」

「信じていたのです」

 私情に溺れる、ありふれた男の渋顔があった。

 午後にはわたしが生出川に釣りにいった。

「息子なら死んではいませんよ」

 という日浅氏の言葉を反芻しながら、わたしはニジマスを釣りあげる。自然河川では珍しいニジマスに、わたしは不思議に思い、あとでネットで調べようかと思うが、思い直す。自分の足で確かめてみようと。そうしてわたしは上流に向かって歩き出した。

 

4. まとめ 

 選評で村上龍も述べているように、「非常に上質な」小説であった。来年には映画化もするらしいのう。映画といえば、この小説を読んでいて思い出した、というか非常にテイストが似ている映画があった。

『A River Runs Through It』である。

 


リバー・ランズ・スルー・イット [DVD]

 

 こちらは兄弟間の物語だが、男同士、釣り、自然……と共通項がいくつも出てくる。上質なものを見たという後味までそっくりだ。

 映画化したら、『影裏』と『A River Runs Through It』を比べてみるも一興かもしれない。


影裏 (文春文庫)

 

『ニムロッド』上田岳弘  第160回 芥川賞  ネタバレ

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 吾輩はビットコインを知っていたのに買わなかったのである。今日は、現代的なIT企業で働く男を通じて現代のうすぼんやりとした哀しみを描いた作品、『ニムロッド』について書こうと思う。

 

 

『ニムロッド』

 第160回、平成30年/2018年下半期の芥川賞は上田岳弘の『ニムロッド』と町屋良平の『1R3分34秒』が受賞した。この賞は平成最後の芥川賞としても話題になったのである。

 今回は、そのうちの上田岳弘の『ニムロッド』について解説、ネタバレしていきたい。

 

 

 

1.作者について

 作者の上田氏は、IT企業で役員をしている。会社まではわからない。いくら調べても出てこなかったんである。上田氏は早稲田大学政治経済学部を一浪一留で卒業し、25歳まで作家になろうとしてフリーター生活を送っていたんである。新人賞の最終候補になったが一旦そこで東京大学卒の友人の企業立ち上げに参加し、そのまま現在は役員となっているとのことだ。

学生時代は営業のアルバイトをしていて、月収30万円ほどあった時期もあったそうだ。今のIT企業の役員をしている友人とは、その営業のアルバイトのつながりもあったらしい。

 

2.作品について

 上田氏のインタビューによると、ニムロッドの第一稿は会社から休みをとり、一日一万字書くと決め一週間で書き上げたそうだ。実質一週間とちょっとで芥川賞を手にしたのだから、これはたいしたものである。

 そのインタビューをもとに読み進めていくと、ビットコインや「ダメな飛行機」にもかなりの文字数が割かれていて、なるほど少し小説としての「濃さ」のようなものは薄い気がする。選評会でも、某選考委員に「ダメな飛行機」がNAVERまとめから出典されているのは手抜き、との指摘を受けていた。

 

3.あらすじ(ネタバレしています!)

 IT企業に勤務している僕、中本聡は課長になった。というのも社長の一声によって、会社の余ったサーバーを使ってビットコインをマイニングする課をつくり、その課長に命じられたからだ。課の名前を僕は恋人の田久保紀子に相談し、結局「採掘課」に決まる。その間にも、同じ会社の先輩で以前、うつ病で休職し名古屋に移った先輩、荷室仁、通称ニムロッドからのメールは来ていた。

 ニムロッドからのメールは一風変わったもので、それはNAVERまとめに上がっている【駄目な飛行機コレクション】というものに解説を加えたものだった。【駄目な飛行機】とは飛行機を作る過程で生じた、飛べなかったり、墜落したり、パイロットが戻ってこれないような飛行機たちだ。

 ニムロッドの話をすると、田久保紀子は興味を示した。彼女は証券会社に勤務していて、バツイチだという話を以前僕は聞いていた。

 前の夫と別れた原因は、結局は彼女のおなかにできた子供だという。妊娠して間もなく検査を受けたら、染色体異常が認められて、彼女たちは結局おろすという決断をしたのだった。

それから彼女は、自分がもう「人類の営み的なもの」に乗れない、と感じている。

 僕は名古屋出張の際に、久しぶりにニムロッドにあう。そこで採掘課の話をすると、ニムロッドは大いに興味を持って、社長が僕に採掘課を命じたのも、ビットコインの元になった論文の著者がサトシ・ナカモトという僕と同姓同名の正体不明の人物なんじゃないかという。また、ビットコインは採掘量が逓減するから、なんの対策も打たないと採算は減るばかりだともアドバイスする。

そして、僕はニムロッドが以前中断していた小説の執筆を再開したことを知る。

 ニムロッドは【駄目な飛行機コレクション】の代わりに小説も送ってくるようになる。

 その小説は人間の王、ニムロッドと名乗る人物の話だった。小説の中でニムロッドは高い塔を建設し、ビットコインの限りなく膨大な資産を持ち、彼の欲望はダメな飛行機をコレクションすることに向かっていた。

 僕は出社の途中に、突然田久保紀子に呼び出される。彼女の異常な様子を感じ取った僕は、会社を休んで出張明けの彼女の元へ向かうけれども、彼女は思ったよりも平静だった。聞くと、いつも飛行機の中では嫌なことを思い出すから彼女は離陸早々睡眠薬で寝てしまうのだが、睡眠薬をどこかに落としてきてしまい、寝れなかったらしい。僕は田久保紀子が眠れない飛行機の中で想像したことを想像する。染色体の足りない子供、いや子供とも言えない、彼女のお腹の中での細胞の塊……

 ニムロッドからは、再び小説が送られてきていた。ニムロッドは最後の商人から駄目な飛行機を買おうとしていた。駄目な飛行機の名は「パーシヴァルp.74」飛べない飛行機だという。値は張るらしいがニムロッドにはささいな金額だった。

 シーツにくるまった田久保紀子が「東方洋上に去る」と言った。それは何かと僕が聞くと、以前ニムロッドが送ってくれた駄目な飛行機【桜花】の設計者の言葉だという。【桜花】はパイロットが帰還することを想定せずに作られていた。いわば特攻隊の飛行機だった。

 再びニムロッドから小説が送られてくる。ニムロッドのもとに最後の商人がやってきて、もうニムロッドは駄目な飛行機を買えないという。なぜかと聞くと、もはや人間は個であることをやめて、一つのどろどろとした塊となった。とあるファンドとも融合し、完全な存在になった彼らには駄目な飛行機は作れないのだと。

 ニムロッドは駄目な飛行機コレクションのうちの一つ【桜花】に乗って太陽に飛び立った。

 僕は田久保紀子と連絡が取れなくなる。彼女は最後に、

 プロジェクト完了。疲れたので東方洋上に去ります。

 というメッセージだけ残していた。

 僕が課長をする採掘課は、本業が好調なために有名無実な課となっていた。そこで僕は、採掘だけでなく新しく仮想通貨を作ることに挑戦しようとする。仮想通貨は通貨ごとに名前があって、例えばビットコインなら、1 BTCそして、 0.00000001BTC で1 satoshiと呼ばれる。

 僕は新しい仮想通貨の単位をnimrodにすることを思いつく。そしてもう会えなくなった田久保紀子とニムロッドを思い出すのだった。

 

 

4.まとめ

 川上弘美選考委員は「本作には小説のおもしろさがすべて詰まっている」と評したが、いいえて妙だと思う。この小説は、直接的な描写がないのにどことなく官能的だ。だれも死なないのにどことなく哀しい。

 ビットコインバベルの塔、駄目な飛行機というモチーフを使って、現在の日本社会に漂う、うすぼんやりとした絶望感をうまくとらえた作品だと吾輩は思う。

 ぜひ一読をお勧めしたい。


第160回芥川賞受賞 ニムロッド